「良いエンジニア」と
「最高のエンジニア」の決定的な違い

 コードクリサリスのカリキュラムは、「コミュニケーション力」と成長に向けた「マインドセット」の獲得に力を入れている。一般的なプログラミングスクールではあまり見かけない特徴だが、その理由をムニダサ氏はこう説明する。

「コーディングのスキルだけでは、一流のエンジニアにはなれないからです。ソフトウエア開発は個人競技ではなく、プロジェクトマネジャーやデザイナーなどとコラボするチームスポーツです。それに、プログラミングは機械に対してではなく、そもそも人に向けて行うもの。誰にとっても読みやすく、さわりやすい、本当に優れたコードを書くためには、コミュニケーション力が欠かせません。グッド・エンジニアとグレート・エンジニアを分けるのは、『コミュ力』です」

dog自由闊達な雰囲気のオフィス兼教室。「この子は『チーフ・かわいい・オフィサー』です」とムニダサ氏。Photo by HK

 また、マインドセットに重きを置くのは、すべてのスキルの基盤になると考えているからだ。失敗や難しい問題に直面したときや新しいことに挑戦するとき、人の行動を大きく左右するのは「自分はできる」というグロースマインドセットであることは、数々の研究で明らかになっている。

「我々の目標は、自律して柔軟性の高い、グローバルで通用するソフトウエアエンジニアを育てて、日本を強くすることです。だから、壁にぶち当たる度に、立ち止まって誰かの指示を待ったり、他人の意見を素直に聞けなかったりではダメ。壁にぶち当たることを楽しめるくらいになってほしいんです」

 もう1つ、コードクリサスがこだわっているのが、英語でコミュニケーションすることである。

 意外に思われるかもしれないが、「競技プログラミング」(Competitive programming)の強豪国として真っ先に名前が挙がるのは、ロシア、中国、そして日本であり、韓国、台湾、アメリカがそれに続くという。ムニダサ氏も「日本にはすばらしいエンジニアが大勢いる」と認める。

「それなのに、日本のエンジニアが世界であまり知られていないのは、英語ができないからです。エンジニアのグローバルなコミュニティに参加しても、発言しないし、質問しない。世界中から発信される最新の技術に関する情報も、日本語に翻訳されるまで読めないので、出遅れがちです」

 企業受託の社員研修などは、希望に応じて日本語への対応など柔軟なカリキュラム設計を行うが、そもそもITの世界の標準語である英語でコミュニケーションができれば、日本人エンジニアの可能性はまだまだ広がるというムニダサ氏の思いは変わらない。

「ブートキャンプ卒業生の、グーグル、IBM、ソニーなどへの入社実績がそれを証明しています。彼らが手に入れたのは、新しいキャリア、そして、新しい人生です」

 DXに伴うデジタル人材不足の解決策として期待がかかる「リスキリング」だが、時には潜在的な力を引き出すことで、本人に自信を与え、人生をすっかり変えてしまうこともある。人をトランスフォームする力が、リスキリングにはあるのかもしれない。