「デジタル人材」の不足に頭を抱える企業にとって、今いる人材に必要なスキルを再習得させる「リスキリング」は、生き残りをかけた重要課題となっている。同時に、現在のキャリアに行き詰まりを感じたり、テクノロジーに職を奪われる技術的失業におびえる個人にとっても、デジタルスキルの獲得は人生を左右するチャレンジになり得る。今回、即戦力のソフトウエアエンジニアを育てることで知られるコードクリサリス社のブートキャンプを取材。決して安くはない費用、脳に汗かく時間の先に、受講者たちは何をつかみ取ろうとしているのだろうか。(聞き手/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光、構成・文/相澤 摂)
元・語学教師やバレエダンサーなど
受講者の顔ぶれは多彩
金曜日の20時すぎ。西麻布のビルの一室で、ノートパソコンを手に、真剣な顔で話し合うチームの姿があった。
街には週末の夜を楽しむ人があふれているが、誰も帰ろうとしない。食事もとらずにもう4時間以上こうしているのは、プログラムのエラーがどうしても解決できないからだ。
彼らは、ベンチャー企業・コードクリサリスが提供する、未経験から3カ月でプロのソフトウエアエンジニアを養成するための「シリコンバレー式」最難関ブートキャンプの受講者たちである。
年齢は20代後半から30代が中心で、元・語学教師のアメリカ人、看護師経験のある日本人女性、バレエダンサー、現役のシステムエンジニアと、経歴もプログラミングに関する知識レベルも、異なる。
しかし、それもカリキュラムが始まる前の話で、いったん走り出せば、ずぶの素人でもみるみる力をつけていくし、生半可な知識ではまったく歯が立たなくなるため、実力の差はほとんどなくなる。そして卒業時にはそろって、どこでも通用する真のエンジニアになっているというのだ。
とはいえ、「軍隊式訓練」を意味する「ブートキャンプ」の名前のとおり、その密度の濃さは尋常ではない。実際、途中で音を上げそうになる受講者もいる。
それでもほとんど脱落者が出ないのは、130万円を超す受講料だけが理由ではない(※本コース以外にも複数のコースあり)。コードクリサリスの共同創業者兼CEOのカニ・ムニダサ氏は、次のように説明する。
「人生を変えたいと本気で思わなければ、参加できない仕組みになっているからです。入学試験のハードルは高いし、授業は平日の朝から夕方までびっしりで、土日をまるまる使わなければこなせないほどの課題も出ます。3回遅刻すると1日分の欠席になり、正当な理由なしに3日欠席すれば除籍になるということも、最初にしっかり説明します」
それでもチームでアイデアを出し、協力しながら問題解決にあたる受講者たちは、どこか楽しそうに見える。
「リスキリング(学び直し)を通じて人生を変える、という夢を持っているからだと思います。それは、私自身がかつて経験したことでもあります」