現在、国民1人当たりの防衛費は約4万円だ。アメリカの国防費が国民1人当たり約21万円というのは別格としても、イギリス、フランス、ドイツなどの半分以下だ。

 中国、北朝鮮、ロシアという核保有国に囲まれ、それぞれの国が軍事的なプレゼンスを強めている現状を思えば、私も「増額は不可避」だと思う。

「5兆円もあれば、消費税率2%(4.3兆円分)引き下げることができる」
「5兆円もあれば、医療費の窓口負担をほぼゼロ(5.2兆円必要)にできる」

 このように、防衛費増額を批判する野党議員や有識者の考え方もわからなくはないが、中国が国防予算に年間26兆円も充てていることなども考慮すれば、「巨大地震に備えるのと同様に、巨大な中国に備えるべき」と言わざるを得ない。

日本と欧米では異なる
防衛費の計算基準

 ただ、先に挙げたNATOは、「締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなし、集団的自衛権を行使する」ことが全ての加盟国に求められている。アメリカ軍が攻撃を受けたからといってすぐに加勢できない日本とは事情が異なる。

 NATOと日本とではGDP比の算出方法にも違いがある。NATOの場合、退役軍人年金や日本の海上保安庁に相当する沿岸警備隊の経費、PKO(国連平和維持活動)への拠出金なども含んでの数字だが、日本はこれらを除外して計算している。日本もNATO基準で計算すれば、防衛費はGDP比で1.2%を超える。

 岸田首相はこれまで、防衛費の増額について、「内容・金額・財源の3点セットで議論を行う」と述べてきた。

 そうであるなら、防衛に関する全体の費用はいくらで、増額分が何に使われようとしているのか(無用の長物に使われていないか)、そして、その財源はどこから持ってこようとしているのかにも目を向ける必要がある。

防衛費の概算要求は
金額を示さない「事項要求」に

 もう一つ注目すべき点は、防衛費に関する今年の概算要求が従来とは異なる点だ。

 通常は、毎年5月か6月、財務省と防衛省との事前調整で「この金額まで」という予算枠(シーリング)が固まる。