『週刊ダイヤモンド』8月27日号の第一特集は、『大激変!軍事ビジネス&自衛隊 10兆円争奪戦』です。自民党は防衛予算を10兆円規模に倍増させる方針を打ち出しました。そこで始まったのが、陸海空の自衛隊による予算分捕り合戦です。長らく「陸自優勢」が続いてきた自衛隊の序列に異変が起きることになりそうです。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

戦闘機、戦車…正面装備を揃えても
正面装備を動かせない異常事態

 自民党が防衛予算を10兆円規模へ倍増させる方針をぶち上げた。降って沸いた防衛特需に、防衛省や自衛隊、軍事関連企業は早くもそろばんをはじいている。

 中でも、陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊による予算争奪戦は熾烈だ。

 陸海空の自衛隊からからなる23万人組織――。三つの自衛隊は採用も勤務地もバラバラであることから、全く異なるカルチャーを持つ。例えば、陸自のキャッチフレーズは「用意周到・動脈硬化」。この言葉には、慎重なのはいいが上位下達の文化が染み付いており融通が効かないというカルチャーが色濃く反映されている。

 三つの自衛隊のうち、最大派閥は陸自だ。自衛官の6割強、防衛予算の4割を握っており、政治力も強い。

 これまで、陸海空の3組織はその存在意義を予算のシェアで誇示してきた。かつては「シェアを1%でも落とすと、その自衛隊幹部のクビが飛ぶ」(政府関係者)と語り継がれてきたくらいだ。実際に、13年度から20年度くらいにかけて、陸海空のシェアに大きな変動はみられず、おおむね陸自優勢の状況が続いてきた。

 だが、陸自優勢の序列が激変しそうな雲行きだ。日本に限った話ではないのだが、防衛戦略の中心が陸から海・空へとシフトしているからだ。実際に、陸自が運用する戦車の不要論まで取り沙汰されている。

 そんな折に到来したのが、今回の“予算大盤振る舞い”の防衛特需だ。予算の大きさこそ各自衛隊のパワーの源泉である。さながら「バブル予算争奪戦」の様相だ。

 今回、陸自の防衛予算が切り込まれる公算が大きい。

 従来、陸海空の自衛隊は予算を多く取りたいので、戦車、護衛艦、戦闘機など「正面装備」の拡充を優先してきた。以下は“高額装備品のお買い物リスト”(ある自衛官)と称される中期防衛力整備計画(2018年、中期防)の別表だ。

 ところが、陸海空の自衛隊がこれらの高額な正面装備に予算を優先的に使い続けた結果、正面装備を稼働させるのに必要な弾薬や燃料の補充を後回しにするというあり得ない事態が発生している。正面装備を揃えても、その装備を動かせないという本末転倒に陥っているのだ。

 陸海空による一体性のない予算要求がまかり通ってきたのは、防衛省の内局、いわゆる”背広組”が自衛隊を統治しきれていないことがある。さらに陸海空の経営資源を適切に分配する役割を担う「統合幕僚監部」でも、統合運用は機能不全に陥っている。

 やみくもに予算を増やしたとことで、日本の防衛力強化になどつながるはずもない。陸海空の変わらぬ予算シェア、正面装備ありきの予算要求といった悪弊にメスを入れられなければ、巨額の税金をドブに捨てるようなものだ。

日本の安保環境は「戦後最大の危機」
台湾有事は日本有事だ

『週刊ダイヤモンド』8月27日号の第一特集は、『大激変!軍事ビジネス&自衛隊 10兆円争奪戦』です。

 中国、ロシア、北朝鮮の軍事力強化により、日本の安全保障環境は戦後最大の危機を迎えているといっても過言ではありません。

 とりわけ、現実味を帯びて迫っているのが台湾有事です。8月上旬に、米国のナンシー・ペロシ下院議長が25年ぶりに台湾の地に降り立った直後には、これに反発した中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を実施。日本を含む東アジア地域では、かつてないほどに軍事的緊張が高まっています。

 いまだ日本人の軍事や安全保障に対する関心は高いとはいえません。日本は唯一の戦争被爆国であり、国民がアレルギー反応を示す、センシティブな議論を避けてきた事情もあるのでしょう。しかし、いよいよ現実を直視しなければならない局面に来ています。

 戦争が軍事攻撃の一辺倒だった時代も今は昔。ロシア・ウクライナ戦争では、ハイブリッド戦争の脅威を見せつけられています。ハイブリッド戦争とは、軍事攻撃に、サイバーアタックや情報戦、経済的脅迫、外交政策などさまざまな手段を織り交ぜて戦うこと。戦争の仕方が多様化かつ複雑化しているのです。

 ウクライナショックは、我が国日本とて対岸の火事ではありません。ウクライナで起きたことは迫り来る台湾有事でも当てはまります。そして、台湾有事は日本有事でもあります。日本はどのような戦略と装備でもって台湾有事に備えなければならないのでしょうか。

 自民党は、防衛費をNATO(北大西洋条約機構)並みのGDP(国内総生産)比2%水準、すなわち10兆円規模へ引き上げる方針をぶち上げました。

 予算の大盤振る舞いに、防衛省・自衛隊や装備品を扱う防衛関連企業は浮足立っています。米国の軍需産業もまた、虎視眈々とジャパンマネーを狙っており、さながら「バブル予算争奪戦」の様相を呈しています。

 予算倍増の動きは政治のパワーシフトとも連動しています。防衛力強化を主導していた安倍晋三元首相が逝去したことで、日本の安全保障戦略をリードするのは誰なのか、権力シフトが起こりつつあるのです。日本の国防を巡り、“権力とカネ”がうごめき始めています。

 日本の安全保障は本当に守られるのか――。本特集では、イデオロギー論争に終始するのではなく、防衛産業と自衛隊の未来に焦点を当てることで、「国防の大問題」に切り込みます。