防衛省内では、この金額に沿って「何を増減させるか」の議論が行われ、7月に担当局長、8月に大臣の了承を得て、8月末には概算要求を行うというのがパターンである。

 そして、年末までの調整で要求した額から数パーセント分減らされ、大臣折衝を経て来年度予算案の総額が固まるというのが通例だ。

 ところが今年は、防衛費については要求基準の金額を示さず、防衛省が必要な予算項目を提出する「事項要求」が認められた。

「事項要求」は、2021年度、2022年度の予算編成で、最優先課題だった新型コロナウイルス対策予算で認められている。

 つまり、「来年度予算案編成では、防衛費増額が最優先課題なので、あらかじめ金額の上限は決めないから、防衛省のほうで必要な額をはじき出してくれ」というわけだ。

 政府は、年末までに、安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略」、今後10年程度の外交・防衛の基本方針を定めた「防衛大綱(防衛計画の大綱)」、そして、5年間の防衛費や主要装備の数量を決める「中期防(中期防衛力整備計画)」を改定する。

 年度ごとの防衛費は、「中期防」に沿って確定されるのだが、今年はこれらの作業が同時に進む特異なケースとなっている。

 金額の上限を定めず、どのような装備が必要かを自由な発想で洗い出す(元自衛隊幹部)のが狙いで、それだけ、来年度予算案の策定において、防衛費の増額を重視しているという証左といえるだろう。

防衛省は全領域戦に備え
「認知領域」で予算計上へ

 こうした中、防衛省が、安全保障の領域に「認知領域」を加え、海外のフェイク情報の分析など新たな領域の防衛力を強化する方針であることが明らかになった。これが来年度予算に反映されれば一歩前進といえる。なぜなら、この分野は中国が力をつけてきた分野だからである。

 中国軍事科学院が編纂した『戦略学』(2013年版)では、現代の戦争について次のように説明している。