「専守防衛」という縛りも効いている。極めて深刻な被害が生じてからいることが判明して初めて、自衛隊のサイバー防衛隊は反撃できる。これでは後手に回ってしまう。

 加えてマンパワーの問題もある。下記の通り、日本は近隣諸国と比べ、あまりにも貧弱なのだ。

◇サイバー部隊の人数比較(2021年度防衛白書より抜粋)
○日本:自衛隊サイバー防衛隊 540人。
○中国:サイバー戦部隊(17万5000人)の中に攻撃専門部隊(3万人)を擁する。
○北朝鮮:サイバー戦部隊(6800人)。

 宇宙戦も心もとない。自衛隊には、2020年5月、航空自衛隊の中に「宇宙作戦隊」が設けられたが、20人体制という極めて小規模な組織である。

 対する中国には、毛沢東時代の1950年代から「両弾一星」(両弾=原爆と大陸間弾道ミサイル、一星=人工衛星)というプロジェクトが存在し、今では、サイバー戦や電磁戦と並んで、宇宙戦でもアメリカを凌駕する勢いとなっている。

 アメリカも、トランプ政権時代、「宇宙軍」を発足させるなど、宇宙における競争力を強化していて、日本は周回遅れの感が否めない。

中国との全領域戦に備えて
「専守防衛」に固執しない議論が必要

 8月2日、アメリカ議会下院のペロシ議長が台湾を訪問した際、中国が実施した軍事演習は、「台湾や尖閣諸島など、いつでもすぐに包囲できる」という力を見せつけることとなった。

 これが実戦となれば、グレーゾーンと呼ばれる「戦時」でも「平時」でもない事態、つまり、水面下で情報戦やサイバー戦などが続き、空軍や海軍による衝突へと発展して以降も、砲撃や上陸作戦と並行して、宇宙戦なども含めた全領域戦が展開されることになるだろう。

 したがって、「全領域戦への対応強化」と「陸海空の戦力強化」の2つが急務となる。

 概算要求の「事項要求」では、全領域戦への備えとともに、高度な弾道ミサイル迎撃能力を有し、極超音速滑空兵器などにも対応する「イージス・システム搭載艦」などの整備も盛り込まれることになるだろう。

 私個人は賛成派だが、国民のコンセンサスは取れていない。先の参議院選挙での自民党圧勝は、有権者が防衛費増額を承認したこととイコールではない。

 政府・自民党は、なぜ防衛費の増額が必要で、何を補強しようとしているのかを国民に明示すべきだ。場合によっては、「専守防衛」にこだわらず「いかに日本の国土と国民を守るか」に軸足を置いた議論も求められるだろう。