実際、うつになりにくい人は、ネガティブ気分のときには、ふだんよりも、ポジティブ度の高い記憶を思い出す傾向がみられる。それは、ネガティブな気分から抜け出そうと意識下で必死になって格闘している証拠と言える。

 そのための具体的な方法として、楽しかったこと、うまくいったこと、ほめられたこと、うれしかったこと、懐かしいことなど、ポジティブな記憶を積極的に思い出そうとしている。それによって、ネガティブ気分を緩和しようとしているのである。これを気分緩和動機という。

 ここからわかるのは、気分が落ち込んだら、すぐにそうしたネガティブな気分を緩和すべく、ポジティブな記憶を積極的に検索し、引き出そうとするのがよいということである。それによってネガティブな気分の持続を防ぐことができ、過度に落ち込まずにすむ。

落ち込みやすい人は、
記憶とのつきあい方を変える必要がある

 私は、仕事柄、ちょっとしたことで落ち込みやすい人をたくさん見てきたが、共通点は記憶に足を引っ張られているように思われるところだ。どうも記憶とのつきあい方に問題があるようだ。

 落ち込みやすい人は、ネガティブなエピソードを思い出すことが多い。気がつくとネガティブな記憶をついつい反芻しているという。それがますます気分を落ち込ませることになる。

 友達から言われて傷ついた言葉が気になり、しょっちゅう反芻しては嫌な気分に陥る。みんなの前で恥をかいたときのことをつい思い出して、落ち込んでしまう。頑張っても仕事で成果を出せなかったときに、学校時代にいくら頑張っても部活でレギュラーになれなかったことなどを思い出して、自分は何をやってもダメだなあと自己嫌悪に陥る。

 落ち込みやすい人の話を聴いていると、よくもまあこんなにつぎつぎと嫌なことばかり思い出すものだとあきれるほどに、ネガティブな出来事について語る。ネガティブな記憶を引き出すことに関しては天才的な能力を発揮する。