ネガティブな気分の時は、
過去を振り返らず、何か別のことに没頭する

 落ち込みやすい自分から脱するには、そうした記憶へのアクセス法を変えていくといい。

 ネガティブな気分のときはネガティブな出来事の記憶が引き出されやすい。ゆえに、ネガティブな気分のときは過去を振り返らないようにすべきなのである。うつうつとした気分で日々を過ごしている人は、沈んだ気分で過去を振り返るため、ネガティブな記憶にアクセスしてしまい、ますます気分が沈むことになる。沈んだ気分のときはけっして過去を振り返らない。このことを徹底したい。

 そうはいっても、いつの間にか過去を振り返って、嫌なことを思い出すのが常で、そんなに急に習慣は変えられないというかもしれない。たしかに身に染みついている習慣はそう簡単に変えることはできない。だからこそ、強く意識することが大切なのである。

 ふと気づくと嫌なことを思い出し、反芻している。そんな自分を見つけたら、即刻別のことに目を向ける。一番良いのは何か別のことに没頭することだ。

 軽い運動をする。料理をする。お菓子づくりに没頭する。手芸に没頭する。整理や片づけをする。本を読む。録画した映画やドラマを見る。スポーツを観戦する。友達としゃべる。家族としゃべる。何でもいいので、行動することで過去の回想を断ち切る。

落ち込みやすい人は「記憶との付き合い方」を間違っている榎本博明『なぜイヤな記憶は消えないのか』(角川新書)

 ネガティブな気分のときは、過去を振り返らずに、目の前の現実にどっぷり浸かるのである。

 そして、気分の良いときに過去を振り返るようにする。そうすれば、ポジティブな記憶が引き出されやすい。それによってますます気分が良くなる。そこで過去を振り返ると、またポジティブな記憶が引き出される。そして気分が良くなる。こうしてポジティブな気分とポジティブな記憶の好循環が生まれる。

 このように、これまでのような気分と記憶の悪循環を断ち切り、記憶アクセス法を意識することで、落ち込みやすい自分から脱することができるはずだ。もちろんすぐに自分が変わるわけではない。身に染みついた心の習慣は一朝一夕には変わらない。そこは焦らずに、じっくりと記憶アクセス法の改善を試みてほしい。