相場予測よりも重要なこと

 相場の暴力の前には人間は無力です。それだけ人間の心は弱いということです。大きなマクロショックが起こり、経済にストレスがかかるときは、日経新聞を含めすべてのニュースが「これでもか」というくらいネガティブな情報を流してきます。この強力な同調圧力に対して「NO」と言うには、「より強力なYES」を持つことです。

 普段から心がけておくべきは、不可能な相場予測などに時間を費やすのはやめて、事業の経済性を見極めることに焦点を当てましょう、ということです。すべての企業について、その事業の経済性を見極めることは不可能ですし、また不要です。見極めることのできる確率の高い事業・企業のみを「選択」するのです。「投資において最も重要なことは、実際に自分がどれだけ知っているかではなく、むしろ自分が知らないことをどれだけそれらしく決め付けるかにある」というウォーレン・バフェットの言葉は、事業の経済性を見極めようとする賢明な長期投資家を励ますものだと考えます。

 この原稿を書いているちょうど今、インフレ懸念、ウクライナ戦争を背景として世界的に株価が下落しています。振り返ってみると、コロナ対策で行った過剰な財政政策「ヘリコプターマネー」によって生み出された過剰流動性によって、2020年、2021年の2年間にS&P500指数で株価は54%の上昇となりました。この「コロナバブル」ともいうべき事態の収拾には相当の時間がかかると思われます。ですが、金利が上昇しようが、原材料価格が上昇しようが、それらのコスト増を顧客向けの財・サービスの価格に転嫁するだけの力を持っている企業の価値は持続的に増大します。そのような企業の株価下落を喜べるかどうかが、インベスターかどうかのリトマス試験紙なのです。

奥野一成(おくの・かずしげ)

投資信託「おおぶね」ファンドマネージャー

【プロ投資家の教え】インベスターは株価の下落を喜ぶ

農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(いずれもダイヤモンド社)など。

 

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