キャンプ用品買いあさり
防災を如実に楽しんだケース

 Aさん(30代男性)は、昨今のブームに乗っかってキャンプに興味を抱いていた。日夜キャンプ関連コンテンツをネットであさり、キャンプ用品を眺めてはため息をついた。救われる道はキャンプ用品を買う以外にないように思われた。
 
 妻に相談するも即却下された。妻は極めて地に足の付いた現実的なたしなめを施した。ただの趣味とするには初期費用が高すぎる、と。Aさんも頭でそれはわかっていたが、狂おしく沸騰する物欲を正論で収めることはできなかった。抑圧されたAさんのキャンプ熱は噴出するその時を願って、Aさんの中でマグマのごとくたまり、蓄積されていった。
 
 ある日妻が「うちも防災をしなくては」とつぶやいた。ニュースで被災者の避難所生活を見ていた時だった。Aさんはキャンプ用品のことを考えながら「そうだねー」と生返事を返したが、避難所で寝袋を使用している人を見て天啓を得た。防災グッズの名目でキャンプ用品をそろえればいいではないか!
 
 早速、妻の説得にかかると、妻は意外にすんなりと承諾した。防災グッズはどこかのタイミングでそろえる必要があり、出費の覚悟をある程度していたこと。一家でキャンプに出かけられるようになったらたしかに楽しいかもしれないと考えていたこと。夫のキャンプ熱が日常生活に支障をきたすほど高じていたこと――これらの理由が、承諾した妻にはあったようである。
 
 Aさんは早速寝袋から始めて、折り畳み椅子やテーブルなどを順当に買い、「避難所が機能しなくなったら最悪野宿しなくちゃいけないから」などと言いながらどさくさに紛れてテントまで入手した。かくしてAさんは、キャンプ用品一式をそろえるとともに、かなり十全な防災の構えをなし得たのであった。