昭和の登山家や愛好者たちが立ち上げた会社が業界の多くを占める日本の登山関連業界。特集「日本の山が危ない 登山の経済学」(全6回)の第5回では、登山の大衆化と時代の変化が、大きな地殻変動を起こしている現状をレポートする。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
新旧交代、登頂か滑落か 登山産業の泣き笑い
エベレスト最年長登頂記録を持つ冒険家の三浦雄一郎氏をはじめ、日本人で初めて世界の標高8000m峰全14座を完全登頂した竹内洋岳氏など、日本でトップクラスの登山家が多く所属する大手登山専門店、ICI石井スポーツが、2019年4月にヨドバシカメラに買収された。1964年に登山・スキー靴の製造販売で創業した石井スポーツは、16年には投資ファンド、アドバンテッジ・パートナーズの傘下に入り、17年まで3期連続で当期損失を計上する苦境にあった。
登山業界には山が好きな登山家が起こした老舗会社が異常に多い。だが今、こうした企業が相次ぎ業界再編の波にのまれている。06年には、30年代に早稲田大学山岳部出身の川崎吉蔵氏が創業した、登山専門出版社最大手の山と溪谷社がIT企業インプレスホールディングスに買収された。
11年には、大正時代創業の国内最古の専門店、好日山荘の運営会社コージツを投資ファンドのDRCキャピタルがTOB(株式公開買い付け)、12年に同社は上場廃止となる。さらに47年に京都大学の山岳部有志が発刊した専門誌「岳人」も、14年に中日新聞からモンベルが発行権を取得した(下図参照)。
登山は、商品やサービスの選択を間違えば最悪の場合、山で死ぬ。専門性が強く求められ、物販は専門店での接客対応が、情報収集は紙の専門誌が重視されてきた。物流システムの無駄が多くEC化率も低い。一般の流通市場の進化から取り残された形で生き残ってきた登山業界が今変わりつつある。