口座維持手数料を払えない人を
デジタル給与で吸収する

 一方で、これまでもこの連載で書いてきたように、日本では貧富の格差が広がっています。日本では最低賃金の1.2倍以内で働いている人が、全従業員の約4分の1いらっしゃいます。最低賃金に近い人はアルバイト・パートの方も多いのですが、その2割は正社員です。普通にフルタイムで働いても、年収200万円程度しか手に入らない日本人が増えているのです(詳細は『最低賃金をめぐる「大矛盾」、正社員増加でも解決しない問題の本質とは』を参照)。

 前述のアメリカでも、似たような状況です。ただ、アメリカでは最低賃金に近い層は銀行口座を開けません。月給が20万円以下で給料日前には銀行残高がゼロ近辺になってしまうので、口座の平均残高22万円などキープできないのです。

 それで、アメリカの低所得層にはペイロールカードという仕組みが普及していて、これを使って電子的に給与を振り込んでもらいます。これが、今回日本が導入を検討しているデジタル給与のモデルとでも言うべき仕組みです。

 まだ日本の制度設計はこれからなので、あくまでアメリカと似た仕組みになったとしての説明ですが、仮にPayPayがデジタル給与に参入したとして考えましょう。すると、これまでのPayPayの仕組みとは違って、デジタル給与がATMでも現金として引き出せるようになります。

 もちろん既存のQRコード決済として使えるだけでなく、クレジットカードのように使えたり、証券口座など他の金融サービスとも連携して、あたかも銀行口座を持っているかのように電子マネーが使えるようになります。

 銀行の場合、もし銀行が破綻しても一定の上限までは残高を公的に保障してもらえます。それと同じで、キャッシュレス業者が経営破綻するかもしれません。その場合の保障制度は、例えば「ひとり100万円までは保障する」といったような仕組みが作られるはずです。

デジタル給与の仕組みが整えば
外国人労働者は主要顧客層になる

 さて、日本の場合、デジタル給与を最初に使い始めるのは外国人労働者になるのではないでしょうか。多くの外国人が日本に来てすぐの状態で銀行や郵便局で口座を開設するのですが、本人もそうですし、窓口も結構その対応で苦労しています。それがスマホ決済用の口座で代用できて、しかもATMで銀行口座のように現金を引き出せるようになれば、日本に慣れる前から銀行口座のことで心配をする必要はなくなります。

 キャッシュレス決済がどこまで進化するかにもよりますが、論理的には外国人労働者が本国で使っていたキャッシュレス決済と日本の口座を連携させることで、本国の両親に給料の一部を簡単に送金することも可能になるでしょう。そのサービスが出現すれば、多くの外国人労働者は銀行口座を開かずに給料を受け取る方法を選ぶのではないでしょうか。