デジタル給与モデルには
四つのビジネスチャンスが眠っている

 さて、このようにデジタル給与が普及するとして、それは新規参入する大企業にとってもうかるビジネスなのでしょうか。

 実はここがポイントで、特定の条件を満たす企業にとっては、銀行が見捨てた顧客層が“金のなる木”に変わるのです。

 日本では、前述のJRやイオンに加え、セブン&アイ、リクルート、パソナ、KDDI、NTTドコモ、そしてアマゾンといった大企業が、論理的にはこの「特定の条件を満たす」可能性があります。それをアメリカの例で説明しましょう。

 このデジタル給与のビジネスチャンスをもっともうまく取り込んで成功しているのが、アメリカ最大の小売企業・ウォルマートです。

 アメリカの商業銀行が相手にしない低所得層をうまく取り込んで、ウォルマートのペイロールカードに加入してもらいます。要するに低所得層のアメリカ人にとっては、ウォルマートが最大シェアの銀行になっているのです。

 そのウォルマートはこの層をデジタル給与で囲い込むことで、次の四つのビジネスチャンスを得ることができるようになります。

(1)ウォルマートの売り上げが増える
(2)消費者金融事業で儲けることができる
(3)保険など金融関連商品の売り上げが増える
(4)広告ビジネスの収益が増える

 1番目のビジネスチャンスは、わかりやすいと思います。ウォルマートをメインバンクにしている顧客ですから、日常の買い物の大半はウォルマートで済ませるでしょう。

 日本人はポイント還元が好きなので、ポイントの仕組みをうまく使えば、デジタル給与を受け取った顧客は、その企業のポイント経済圏に囲い込まれるはずです。

 PayPayや楽天ペイがいち早くデジタル給与に手を挙げたのは、この理由からです。

 2番目に、アメリカではこの層のかなりの人数は給料日前にお金が足りなくなります。そこで次の給料を担保にお金を貸すというのが、デジタル給与を導入する(アメリカ企業の)ビジネスモデルになります。

 振り込まれる給与が担保になっているので、貸したお金を取りはぐれるリスクは少なくなります。消費者から見ればリスクが少ない分、支払う金利も安くなるわけで、この仕組み、双方にメリットがあることになります。

 3番目に、保険ニーズなどこの層独特の金融商品ニーズが存在します。投資商品などには興味がない一方で、病気になって失業すると一気に生活が傾くことから保険ニーズは高かったりします。それも不要な保障は省いて本当に欲しい保険商品を設計すれば、低い保険料でも保険会社は十分にペイできることになります。

 そして最後に、実はウォルマートは広告ビジネスに参入しようとしています。当たり前のことですが、広告主である日用品メーカーや食品メーカーがのどから手が出るほど欲しい購入履歴をすべて握っているので、誰にどのような広告を打てば購入につながりやすいかがよくわかります。