1976年の初版版発刊以来、日本社会学の教科書として多くの読者に愛されていた小室直樹氏による危機の構造 日本社会崩壊のモデル』が2022年に新装版として復刊された。社会学者・宮台真司氏「先進国唯一の経済停滞や、コロナ禍の無策や、統一教会と政治の癒着など、数多の惨状を目撃した我々は、今こそ本書を読むべきだ。半世紀前に「理由」が書かれているからだ。」と絶賛されている。40年以上前に世に送り出された書籍にもかかわらず、今でも色褪せることのない1冊は、現代にも通じる日本社会の問題を指摘しており、まさに予言の書となっている。【新装版】危機の構造 日本社会崩壊のモデル』では、社会学者・橋爪大三郎氏による解説に加え、1982年に発刊された【増補版】に掲載された「私の新戦争論」も収録されている。本記事は『【新装版】危機の構造 日本社会崩壊のモデル』より本文の一部を抜粋、一部編集をして掲載しています。なお掲載している内容は1976年に書かれたものです。

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「平凡」な中にひそむ狂気性

 全日空や丸紅の幹部など、ロッキード事件に関係した容疑者の思想と行動は、戦争を指導し破局に導いた戦争犯罪人のそれと構造的に同型のものであった。つまり、彼らの共通項は、析出せられざる個人から成る集団の機能的要請にもとづく、盲目的予定調和説と構造的アノミーの所産であった。戦前戦後という時間的違いの中を縦貫する共通の行動様式が指摘される。

 このような行動様式は、特異現象のような面として片付けられるきらいがあるが、実はさらに多極的な部分に連なっているのである。軍事官僚、企業エリートだけには限らない。一連の「過激派」の行動にもこの典型がひそんでいる。

 日航機のハイジャック*、アラブ・ゲリラの日本人兵士*たち、最近の企業爆破*、北海道庁の爆破*などの「犯人像」を分析すれば、この点が鮮明に浮かび上がってくる。

*日航機のハイジャックー1977年、日本赤軍が起こしたハイジャック事件。犯行グループはバングラデシュのダッカ国際空港に着陸させ、身代金と逮捕された仲間の解放を要求。日本政府は超法規的措置として犯行グループの要求に応じた。

*アラブ・ゲリラの日本人兵士ー1971年、共産主義者同盟赤軍派の重信房子らにより、レバノンでアラブ赤軍(のちの日本赤軍)が結成され、パレスチナ・ゲリラと連携し、テロ活動を行った。

*最近の企業爆破ー1974年、東アジア反日武装戦線のグループにより、三菱重工ビル爆破事件、三井物産爆破事件、鹿島建設爆破事件などが起きた。

*北海道庁の爆破ー1976年、北海道庁が爆破された事件。事件当日、「東アジア反日武装戦線」を名乗る犯行声明文が見つかった。

 昭和50年5月に、市民生活までを恐怖に巻き込んだ連続企業爆破の犯人グループが逮捕された。この犯人グループの逮捕に接して、周囲の人びとは「まさか、あの人が……」といった風に驚嘆の声をあげた。容疑者の8名は一体どういった人物であったのか。当時の新聞報道を要約してみるとこうだ。

※本記事は『【新装版】危機の構造 日本社会崩壊のモデル』より本文の一部を抜粋、再編集して掲載しています。