リングもシリコンバレーも「優しさ」

星:もう一つ、「感じる」ことへのアプローチとして、格闘技を通じ、自然の中に戻ることを通じて自然を感じ、本来の人間性を思い出していこう。

 子どもたちが人間性を育んでくれれば、という想いで今の活動をされているイメージでしょうか?

三崎:まさにおっしゃるとおりです。

 感じるということは、とても大切なことだと確信しています。

 例えばライオンの群れのリーダーは、強いからリーダーになるわけではありません。

 ライオンの群れのリーダーの役目は、「群れを守る」ことです。

 ですから、ケンカが強いだけではリーダーにはなれません。

 丘の向こうに違う群れがいて、リーダーがいて、自分が先に見つけたらわざわざ自分から戦う必要はありません。

 そこで負けたら、自分の群れはみんな死んでしまう。

 ですから、「戦わずして群れを逃す」という判断が必要です。

 そして自然を読み、嵐がくるのであれば、安全なところに避難させる。

 その自然の嗅覚に優れたもの、つまり、状況やその場の必要性を直感できる者が動物界でリーダーに君臨する。

 やはり、その自然を感じるということが、僕はとても大切なことだと思っています。

星:強いからリーダーになるのではなく、まわりのことを思いやることができ、謙虚な姿勢で全体を見れる人がリーダーであるべき」という話は私自身も強く感じます。

 私も今のシリコンバレーに初めてやってきた時、「やってやるぞ」と心のファイティングポーズをとっていました。

 シリコンバレーといえばIT企業がたくさんあり、競争が激しく、世界中からすごい人が集まっているというイメージでしたから。

 ですが、実際に蓋を開けてみると、もちろん想像通りの側面もありましたが、最終的にはみんなものすごく優しくて、拍子抜けしてしまいました。

 競争分野の人たちでも、親身になって話を聞いてくれますし、困ったことがあれば本当に助けてくれる。

 本当のトップは「強さ」ではなく、「思いやり」や「優しさ」を持った人が多いのだと気づきました。

 その感覚と、先ほどの話、また三崎さんが伝え続けている「強くなるためには優しくならなければいけない、また逆に優しくないと強くなれない、そして優しくないと人間じゃない」というメッセージにもつながってくるのではないかと感じました。

三崎:優しくなかったら、私は生きる資格がないと思っています。

 かといって、精神だけ鍛えようとしても、なかなか難しい。

「健全な肉体には健全な精神が宿る」

 という武道の教えにもあるように、いくら精神の修業だけして、気持ちをつくろうと思っても無理なんですよね。

 私たちは肉体というギフトを神様から与えられ、その肉体を健全に酷使することによって、精神というものが研ぎ澄まされていく。

 そして、そのように研ぎ澄まされた人間が見ている世界は、先ほど星さんがおっしゃった、シリコンバレーで触れた「優しさ」ように、僕の好きな言葉でもある、「シェアする、人と分け合う、人とのつながり、人との助け合い」といったことをとても大切にされていると思うんですよね。

 これは武道の教えにも通ずるところがあります。

 例えば、刀というのは毎日、剣の修行をしてレベルアップをする。

 毎日メンテナンスをして、いつでも抜ける準備をする。

 しかし、死ぬまで刀を抜かないというのが美学ですから。

 刀を抜いた時は、最後は自分が死ぬ覚悟ができた時。

 ただいつでも刀を抜く準備をしておく。

 でも戦わずして勝つということが平和ですよね。

 だから刀というのは戦う武器ではなく、道具だと僕は思っています。

 これが強さの本質なのではないかと感じています。

 格闘家時代に培ったこうした感覚を、これからは次の世代に繋ぐために、今後も精力的に活動していきたいです。

星:心に染みわたるといいますか、共感する内容ばかりでした。

 今回は貴重なお時間を共有させていただき光栄でした。

 本当にありがとうございました。

(本稿は『スタンフォード式生き抜く力』の著者・星友啓氏による特別寄稿です)