不安に駆られず
膨大な数の「失敗」に耐えるには?

 このメンタリティーを参考にしたいところだが、冒頭にも書いた通り、ビジネスパーソンの挑戦を妨げるものの一つに「不安」がある。一般人は5000回どころか、せいぜい50回ぐらいの失敗を重ねた時点で、成功できるか不安になって挫折しそうだ。

 別の書籍からの引用になるが、スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセン氏の近著『ストレス脳』(新潮新書)によると、人が不安になるのは、現代人の脳が、狩猟採集民だった頃から進化していないからだという。不安は、サバンナで肉食獣に襲われる危険などを察知するアラーム(警報)なのだそうだ。

 狩猟採集時代よりは、はるかに安全な社会に暮らしているにもかかわらず、人間の脳はその頃と同じように、わずかな危険の兆候にも火災報知器のようなアラームを鳴らしてしまうのだ。

 ハンセン氏は不安を克服するための手法として、不安をもたらす事象をあえて少しずつ経験し、「脳に『火災報知器を鳴らしすぎだ』と学ばせる」のがいいとしている。

 もしかするとダイソン氏も、5000回以上もの失敗にさらされる中で、自然と不安を克服し、「失敗してもどうってことない」と脳に刻み込んだのかもしれない。

 ビジネスパーソンが仕事をする際、もっと手軽に不安を克服する方法は、「安心して挑戦と失敗を楽しめる場」を用意することだろう。特にチームでアイデアを出さなくてはならないときには、心理的安全性が感じられるミーティングの場を意識して設けるのがいい。

 実際、ダイソン氏も、ダイソンのオフィスや工場に工夫を凝らし、社員の創意工夫を促している。そんなダイソン氏の生き方、価値観、思考法から、さまざまなヒントを得ていただきたい。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

情報工場
ダイソン創業者が、前身事業「手押し車」から掃除機の開発をひらめいた訳
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