止まらない海外投機勢の円売り
中長期的な流れも円安方向に変化
衆議院選挙後の2012年12月17日の午前2時、某証券会社の幹部は深夜のオフィスに出社した。すでにトレーダーが3人来ており、大商いの真っ最中だった。「当然ですよ。円安になってもうからなかったら、“おまえ、何やってんだ”となるからね」。
海外のヘッジファンドでは、キャリー取引ならぬ「キャリア取引」という言葉が流行している。“ドル買い円売りのポジションを持っていないと、自分のキャリアがなくなってしまう”という意味だ。さらに、海外の為替トレーダーの間では「アーベトレード」がはやっているという。こちらは、アービトラージ(裁定取引)のもじりだ。
安倍晋三・自民党総裁が打ち出した「大胆な金融緩和」政策は、為替相場を一変させた。昨年11月13日の円の対ドルレートは79円。11月15日の安倍総裁の講演以降、急激に円安が進み、今年1月18日にはついに90円となった。
安倍総裁が打ち出した金融・経済政策が、投機勢の円売りの“トリガー”となったのは間違いない。だが、「安倍政権でなくとも円高が止まる環境はできていた」(深谷幸司・マーケット・リスク・アドバイザリー フェロー)という意見は多い。
投機勢の姿勢が変わった背景には、中期的要因の1つである、米国および世界の景気の回復と、欧州の危機沈静化がある。世界の資金の流れは、“危機回避モード”から“積極投資モード”に変わりつつある。その結果、これまでのように安全資産と見なされている円に資金が集中し、円高が進むという局面ではなくなった。
さらに現在の円安は、より根本的な構造の変化、長期的な要因の表れでもある。 「最も底流には、日本の国際収支の変化がある」(高島修・シティバンク銀行チーフFXストラテジスト)。多くの専門家が、そう指摘する。すなわち、貿易収支の赤字化と、経常収支黒字の縮小である。