円はここ4カ月に対ドルで14%下落するなど全面安となった。安倍晋三・自民党総裁が政権復帰に際して公約した「これまでの次元を超える金融緩和」に市場は反応した。日本のマクロ政策への期待が市場を先導する展開はまさに驚きだった。

 筆者は、2013年はまず米景気回復がドル高・円安への動きを呼ぶと想定した。この見立ての下、「安倍相場」を当初主導した海外投機筋の円売り残高がほぼ限界水準に達した12月上旬、1ドル=83円手前で、いったん相場にスピード調整が起こる……と見誤っていた。

 その後1カ月で、ドル円は一時90円水準に達した。この間に堅調な米経済指標、自民党の衆院選大勝、日本銀行の追加緩和、米国の「財政の崖」問題妥結など好材料が相次いだ。それでも投機だけでは円高への揺り戻しもなく円安基調が続くことはない。直接投資など日本の実需の駆け込み、外国人の日本資産への為替ヘッジなどが、「安倍相場」へのより腰を据えたサポーターになったようだ。

 市場の大転換初期に相場が突飛な反騰・反落を見せることは多い。旧来の基調に沿って蓄積されたポジションの偏りが修正されるためだ。過去の円安基調への転換は、海外経済情勢が上向き、日本勢のリスク回避的ポジションが巻き戻され、海外投資が増える中で起こるのが典型だった。今回もまた海外マクロ情勢の好転が効いている面はあるが、日本の政策期待をきっかけに海外勢が円安・日本株高を先導する組み合わせは新しい。

 ドル円の基調は循環的に11年の75円を底に、既にドル高・円安方向に転換したとの見方が強まった。図は過去40年にわたるドル円の8年サイクルの変遷だ。縦軸は米国と海外との金利差、横軸はドル相場である。

 第1局面(右上)は米国の好景気下で利上げが続き、金利差がドル高(円安)に作用する。次の第2局面は、先行する米景気・金利サイクルに海外が追随し、金利差はドル不利に縮小するが、株式・直接投資での対米資本流入は続き、ドル高(円安)が続く。第3局面は米景気悪化で金利差が不利になる過程でのドル安(円高)。第4局面は金利低下やドル安で米景気が回復するが、やがて米国の利上げを嫌った株式・債券売りでドル安(円高)となる。