リベラル政党から離れていく人々の受け皿が「陰謀論」

 しかし、今は違う。カーボンニュートラルやネイチャーポジティブを実現するには、産業構造を大幅に転換し、イノベーションを進める必要があることがわかってきた。そうなると、社会的弱者と言われる人たちの仕事内容も大きく転換していかなければならなくなる。

 例えば、衰退する産業の労働者は、新たなスキルを習得して、違う分野で働く準備をしていかなければならない。規制が強化されれば、自分たちが培ってきた技能が使えなくなる。場合によっては生活の変化も余儀なくされる。そして準備や実行には資金もいるが、社会的弱者には資金的余裕が少ない。これに嫌気がさした人々にとって、リベラル政党はもはや味方ではなくなってしまう。リベラル政党離れが起きる。

 では、リベラル政党から離れていく人々は、どこに向かうのか。昨今、受け皿の役割を果たすようになってきているのが「陰謀論」だ。実際に、2016年のアメリカ大統領選挙で共和党トランプ候補が勝利したとき、その少し前からアメリカ国内では陰謀論の関連本が多数出版されていた。

 例えば「アンチ・アジェンダ21」という陰謀論がある。この論者は、世界政府の樹立を目指す闇の勢力が、環境危機を捏造することで社会を統制しようとしており、人々の自由が脅かされていると主張している。この陰謀論は、実際に共和党支持層の一派「ティーパーティ運動」にも大きな影響を与え、トランプ候補支持へとつながった。別の陰謀論では、闇の勢力は環境危機を喧伝し、世界の人口の85%を削減しようとしていると主張する論者もいた。

 日本ではきっと、「陰謀論のようなくだらない話を真面目に論じるのはいかがなものか」と感じる方も少なくないだろう。だが、すでに世界各国で気候変動は陰謀だと考える「気候変動陰謀論者」が9~30%、平均では22%もいるという論文まで発表されている※注釈69。

 陰謀論が増えてきているため、学術界では陰謀論に関する研究や論文が続々と出てきている。そして、日本でも陰謀論が醸成されやすい風土がある。例えば、20カ国で世論調査70を実施したところ、環境科学への信頼に関する設問で、「とても信頼する」と回答した人は、日本はロシアに次いで下から2番目と非常に少なく、25%しかいなかった。アメリカの45%をも下回っていた。