環境問題への経済認識に関して、歴史的には、オールド資本主義と脱資本主義の衝突という構図がはっきりとあった。オールド資本主義側にいたのはグローバル企業と機関投資家で、環境問題に対処することは経営コストだとみなしていた。一方、脱資本主義側にいたのが、環境NGO、農家、労働者だ。だが最近、経済認識の対立構造は複雑化している。その変化の一端を、オランダで畜産農家が大規模デモをした理由からみていこう。
※本記事は『ネイチャー資本主義 環境問題を克服する資本主義の到来』(PHP新書)の抜粋・転載です。
環境問題を「陰謀論」と結び付ける人が増えるワケ
2000年以降の資本主義は大きな変貌を遂げた。かつては環境問題など考慮するに値しないと考えていたグローバル企業や機関投資家たちは、環境問題の深刻さに気付き、積極的に向き合うようになっている。そしていつの間にか、環境NGOと並ぶほどに世界の中で最も環境問題の解決を志向するようになった。
では、あらためて、人々が抱いている経済認識を整理しておきたい。下の図は、拙著『ESG思考』の中で提示した経済認識の分類図だ。横軸は、ビジネスが環境や社会へ及ぼす影響を企業が考慮するようになると、利益が減るとみるか、それとも増えるとみるか、の違いだ。一方、縦軸は、企業が環境や社会の影響を考慮することに賛成か、それとも反対か、というものだ。
この2軸で分けると、異なる4つの経済認識が浮かび上がってくる。まず、左下の「オールド資本主義」。環境や社会へ考慮することはコストでしかないので、考慮するに値しないという考え方だ。マルクス主義が想定した、あのあくどい「資本家」は、オールド資本主義の典型的な例だ。この次元にいる人たちは、基本的に環境問題への関心は薄い。また経済と環境を相反するものと考えているため、経済発展するには、ある程度の環境問題は致し方ないと考えていたりする。
2つ目が、左上の「脱資本主義」。オールド資本主義と同様に、この次元の人たちも経済と環境は相反するものと考える。そして、まさにマルクス主義が主張しているように、徒に短期的な利益を追求するオールド資本主義は、環境や社会を荒廃させるので、そこから脱するには資本主義そのものを捨て去るしかないと主張している。だが、人口が増加していく人間社会で、脱資本主義でどのようにプラネタリー・バウンダリー問題を解決できるかについて、残念ながら説得力のある議論ができていない。