ハンガリー首相「グローバリストは地獄へ落ちろ」

 陰謀論者は、気候変動対策の結果、誰が得をするのかという点に着目してロジックを構築する人が多い。例えば、気候変動が危機だと伝えることで得をするのは大企業であり、大企業の陰謀だという説もある。欧米では、太陽光発電やバッテリーの分野で産業競争力の強くなった中国の陰謀だという人もいる。一方、日本では、ルール形成に長けているヨーロッパが、産業競争の構造を変えるために気候変動の話をあえて持ち出し、日本の産業競争力を弱体化させているという人もいる。

 その中でも昨今、世界的に際立ってきているのが「反グローバリスト運動」だ。反グローバリスト運動は、かつて「資本主義vs.脱資本主義」という構図があった頃の「反グローバリゼーション運動」とは性格が違う。当時の反グローバリゼーション運動は、オールド資本主義の次元にいたグローバル企業を敵対視し、グローバル企業が引き起こしている環境破壊や社会荒廃から世界を守ろうという脱資本主義的運動だった。

 一方、反グローバリスト運動は普遍的な価値観というようなものを嫌悪し、地元を守るために「世界全体思考」の人を攻撃する。当然、プラネタリー・バウンダリーの観点から世界全体で協力して社会・経済を大きく転換させようとする環境NGOは「グローバリスト」側にいるととらえられ、反グローバリスト運動の非難の対象となる。

 反グローバリスト思想を表明している重要人物の1人が、ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相だ。オルバーン首相は、2022年のロシアのウクライナ侵攻でロシア政府がEU向けのガス供給を減らす戦略を打ち出したときに、天然ガス消費量を削減しようというEUの政策に堂々と反対したことでも知られる。

 オルバーン首相は、2022年8月にアメリカのテキサス州で開催された共和党系イベント「保守政治行動会議(CPAC)」にも出席した。そしてそこで、EUと民主党バイデン政権を名指しで非難し「グローバリストは地獄へ落ちろ」と声を荒らげた。このことは全米のメディアでも大きく取り上げられた。

※本文内注釈
69 Mikey Biddlestone, et al. (2022)“Climate of conspiracy: A meta-analysis of the consequences of belief in conspiracy theories about climate change”Current Opinion in Psychology (46)