「サッカーは野球など他のスポーツと比べて点が決まりづらく、それに対して90分ちょっとと試合時間が長目なので、見る価値がないとすると言い過ぎなんですけど、コスパが悪いというか……」

 野球との比較論を経て、費用対効果を意味するコストパフォーマンスの観点でサッカーを捉える。観戦に費やされる労力(コスト)に対して、ゴールという結果(パフォーマンス)が不釣り合いだとする斬新な発想に、中村さんのテンションもおのずと上がっていた。

「引退してから何となくは感じていましたけど、それがまざまざと、リアルに言語化されましたよね。確かに90分間で2、3点しか入らないし、0対0の試合もあるので言い得て妙というか、そういう人たちからするとコスパがいいとは見えないですよね。これが多分、日本の現実なんですよね」

盛り上がりのカギを握る
「ライト層」をいかに引き付けるか

 20歳前後の大学生たちは「ライト層」の中核を担う。中央大学国際経営学部の一ゼミにおけるサンプルは、日本社会全体に共通しているといっていい。一方で代表戦を意識して見ないけれども、ある固有名詞は知っているという声も少なからず上がった。

 それが「ミトマ」だった。直前の3月に行われたオーストラリア代表とのアジア最終予選。後半終了間際から途中出場し、日本を勝利とW杯出場に導くゴールを連発したMF三笘薫の痛快無比な活躍ぶりは、サッカー界の枠を飛び越えて社会的な関心事になっていた。

 メディアで騒がれれば、当然ながら「ライト層」も見聞きする。ブラジルのネイマール、パリSGのスーパースタートリオ、もっとさかのぼればカズや中田、俊輔、そして本田に通じるアイコンの有無が「ライト層」を引き付けるか否かを物語るエピソードでもある。

 そうした状況を理解していたからか。吉田は「自分たちがもうちょっと、メディアへの露出を増やさなければいけないんじゃないか」と考えるに至ったという。実際に6月シリーズの合間には、若手選手たちへ「オフの間に、できるだけ多くの媒体に出てほしい」と伝えている。

「ピッチ外なのでできる範囲となるし、もちろんサッカーで結果を出すことが大前提なんですけど、プラスアルファ、露出をもうちょっと増やしていく。民放各局でサッカーがあまり放送されなくなっている現実を受け止めて、一人ひとりにできること、やるべきことがあるんじゃないかと」

世界で揉まれたヨーロッパ組が過去最多
チーム力は確実に向上

 攻撃の切り札を託される三笘だけではない。MF鎌田大地は今シーズンのヨーロッパでゴールを量産し、チーム最年少の21歳のMF久保建英は今大会全体における若手ブレイク候補の一人に挙げられている。右サイドのスピードスター、MF伊東純也も初めてのW杯に闘志を高ぶらせる。

 攻守を司るダブルボランチ、遠藤航の強さと守田英正のクレバーぶりは玄人受けするレベルから、カタールの地で脚光を浴びる可能性を秘める。26人の中でヨーロッパ組は19人。73.19%に達した占有率は、前回ロシア大会の65.2%、前々回のブラジル大会の52.2%を上回っている。

 チーム全体にみなぎる力は、選手たちの経験値の高さを介して確実に上がっている。アジア最終予選における三笘の例が物語るように、必要なのはきっかけとなる。それもサッカー界を飛び越え、「ライト層」を含めた日本社会を一気に振り向かせるほどの、いい意味での衝撃が求められる。

 自国開催の02年大会を除いて、日本中を熱狂させた10年南アフリカ大会と前回ロシア大会には共通点がある。ともにグループリーグ初戦で勝利し、一気に高まった世論の後押しを受けて決勝トーナメントへ進出。4年前はベスト8の世界が見えかけるほどの死闘をベルギー代表と繰り広げた。

 盛り上がりに欠ける代表人気は森保監督が進めてきた、石橋をたたいて渡る、という故事に例えられる実直かつ堅実なチーム作りにも影響されているだろう。記者会見などでもメディアが飛びつくような、大見出しになるような華のある表現はほとんど用いない。

 代表メンバーが発表された1日こそ盛り上がりを見せたものの、一夜明けてからは元に戻った感があり、むしろ負傷者の報道の方が目立っている。しかし、オセロのように、黒を白にひっくり返せる陣容はそろっている。9日に国内組が日本を立った森保ジャパンには、週明けにヨーロッパ各国のリーグ戦を終えた選手たちが順次合流。いよいよ最後の準備に取りかかる。