経済や金融の基本的な知識を持たない最高幹部が国を動かしている

「今の最高指導者たちは経済や金融に対する基本的な知識を持たないまま、さまざまなことをやっている。彼らはそれとはまったく別の独自のイデオロギーによってそれらを動かしている」

 中国出身で米国在住の経済学者の許成鋼氏は、「ニューヨーク・タイムズ 中国語版」の袁莉・編集長の問いかけにこう答えている。今の政府トップは経済の理論どころか、その成り立ちすらも理解しておらず、一方で政治的な目的に問題をすり替えて政策を行っていると述べ、「コロナゼロ化」についてもまったく同じであり、「彼らは伝染病について理解しておらず、mRNAワクチンについても何も知らず、一連の基礎的な理解ができていない」と指摘した。

 その結果、「感染症や感染防止の視点からすると完全に間違ったやり方でも、彼らの政治的観点で物事が決められている」と、聞く者にとって恐ろしい事象にも触れていた(同インタビューは著作権者の許可を得て、筆者のnoteで無料全文公開中)。

上海ロックダウンは「成功例」だった?

 そんな「伝染病のなんたるか」も理解していない党指導層が進めた上海ロックダウンは、政治的には「成功例」とされてしまった。この国で最も現代的な生活を送ってきた2000万人が2カ月間も自宅に閉じ込められて、文字通りの飢餓にまで直面したあの惨状を、「成果」と評価しているのだ。あのロックダウンで塗炭の苦しみを舐めた人たちにとって、これほど恐ろしい話はない。

 だが、政府が上海を「成功例」としたことで、各地はそれをお手本に「コロナゼロ化」政策を進めている。さらに恐ろしいことに、それが常態化するにつれて、メディアが堂々とそれを「異常事態」として取り上げることが難しくなった。だが、その生々しい失敗は突然起こる悲惨な事件で衝撃的に伝えられるようになった。