支配構造から抜け出す「新しい経営スタイル」とは

武井:僕は倒産した経験から「すべての人間が幸せになれる状態」をつくりたいと思いました。

 でも、今は価値観も多様化して、一人ひとり何を幸せと思うかの定義も違うので、会社が全従業員に幸せを提供することは難しい。

 だったら、一人ひとりが自分らしくいられる環境、選択肢を持てる状態をつくることが、今の自分にできることだと思いました。

 そのために、働く時間、場所、休みも自由。出社する・しないも自由に決められるようにしました。

 また、どの企業にもある「企業理念」もそれ自体が従業員を支配するものになってしまいかねないと思い、企業理念を持たない会社になってしまいました。

 でも当時の私にはそれ以外の方法が思い浮かばなかったんです。

星:ものすごく自由度が高いですね。さらに上司・部下といった上下関係もなくしていかれたのですよね。

武井:はい。「支配」という概念を組織の中からなくしたかったんです。

 そのためには、まず上司をなくさないといけないわけですが、そうすると稟議や給料なども全部自分で決めざるをえなくなる。

 ただ、誰しも一人で判断することは難しく、結局誰かに相談することになります。

 さらに、どうしても社会の枠組みの中で、持たざるをえない役割として、取締役や株主があります。

 そこも既得権益化しないためにどうしたらいいかを模索してきました。

 そうした役割を常に流動化させることで、既得権益化しない仕組みを試してきました。

星:なるほど。このあたりが武井さんの提唱している「非営利株式会社」のベースにつながっているようですね。

武井:そうですね。まず、支配のない組織構造を考えた場合、会社組織は、最初はいかに従業員をコントロールするかから始まり、いかに忠誠心を高め、どうやってうまいこと組織を回していくかというマネジメント論になっていきます。

 けれど株式会社は最終的に誰か個人の所有物なので、組織論を突き詰めていくと最後はマルクスの『資本論』にたどり着くのです。

 つまり「資本構造」が支配構造をつくっているというのが今の資本主義。

 だから私はこのような支配構造を生まないために、自分の会社を非営利の株式会社にしてしまうことによって、株主が利益を貪ることができない状態を法的につくりました。あえてバリュエーションという企業価値をつけないようにしているんです。

 株式会社は売上が赤字でも、「企業価値はあるので〇%の株式を出して〇円調達します」という、いわゆる未来価値の先取りをしていきます。

 でも、一度でも株価を上げて資金調達をすると、その後も株主の為に株価を上げ続けなければいけないようになり、あっという間に支配構造に組み込まれていく。

 そうではなく、出資した分だけみんなで持ち合う。

 私はこれを「コミュニティエグジット」と呼んでいます。

 株価を上げていくためには、最終的な選択肢として上場するか、経営権を得るために過半数の株式を買収するかになります。

 そこで「第3の出口」として、「エクイティストーリー」というコミュニティで持ち合う方法を考えました。

 そうすれば、ずっと支配構造のない会社で居続けることができると考え、今の会社で実施しています。

星:なるほど。コミュニティを愛してくれる人たちによって会社ができ上がる。またそうしたサポーターを持つことが会社の最終目的「エグジット」となる。そんなイメージですね。

 上司に縛られるのではなく、一人ひとりがどれだけ自由でいられ、自分たちのコミュニティの中でやっていけるかという「自律分散型」の組織づくりは、とても武井さんらしいと思いました。

 次回は、「自律分散型」からさらに話を広げ、今、日本でも急速に注目を集めている「Web3分散型インターネット」や「DAO(自律分散型組織)」などについてお話しいただきます。