冒頭に紹介した通り、山上容疑者は「母親が教団に多額の寄付をして自己破産に追い込まれ家庭が崩壊した」と恨みを募らせ、さらに「教団を韓国から招き入れたのが岸信介元首相。だから孫の安倍元首相を殺害した」とも供述しているとされる。
実際に安倍元首相は昨年9月、教団の友好団体「天宙平和連合」のイベントにビデオメッセージを寄せていたことが判明。さらに、自民党議員の多くが選挙活動に尽力してもらうなどズブズブの関係だったことも露呈した。
山上容疑者は、教団と自民党にとっての「パンドラの箱」を開けたともいえ、その後は教団を巡るさまざまな動きが加速している。しかし本稿はあくまで「動機」としての供述と位置付け、来年以降の刑事手続きについて考察したい。
裁判員裁判の導入で
鑑定留置が増加
まず鑑定留置とは、容疑者や被告の心神や身体に関する鑑定が必要なとき、裁判所が期間を定め精神科病院や拘置所などに留置すること(刑事訴訟法167条)だ。平たく言えば、刑事責任能力の有無についての判断をスムーズに進めるための手続きと解釈してもらえば良いと思う。
実施するタイミングは捜査段階と起訴後の2パターンあり、前者は検察官が裁判官の令状を受けて精神科医に依頼する。後者は検察官のほか弁護人の請求を受けて、裁判所が依頼する。期間は2~3カ月が一般的だ。
最近の傾向として、裁判員裁判の対象となる事件について多く実施されている。これは法律の専門家ではない一般市民が刑事責任能力について適切に判断できるよう、精神科医による丁寧な説明が必要になったためといわれている。
今回の事件は殺人罪なので、起訴されれば裁判員裁判の対象となる。公判で被告の言動に不可解な点があれば当然、刑事責任能力に疑問符が付くわけで、検察側にも鑑定で確実な根拠を得て公判に臨みたいという思惑もあるはずだ。
山上容疑者については7月25日から11月29日の予定だったが、奈良地検が17日、期間の延長を請求し、一時は奈良簡裁が来年2月6日まで認めていた。
これに対し、弁護側が「通算6カ月以上の期間はあまりに長過ぎ、必要性や相当性を欠いている」として、延長取り消しを求めて奈良地裁に準抗告を申し立て、結局、来年1月10日までに落ちついた。