予想される弁護側の
「精神的に不安定」

 刑事責任能力の有無について慎重に審理するという目的であれば、弁護側も同意してしかるべきと思われるかもしれないが、やはり人権への配慮という点で無制限に勾留を続けるわけにはいかない。

 そして、この鑑定の期間は原則として警察官や検察官は取り調べができない。なので、銃刀法違反などの容疑については、殺人罪での起訴後、改めて聴取した上で供述調書を作成し、追送検されることになるだろう。

 そもそもだが、鑑定が始まる前の段階で山上容疑者は容疑を認め(現行犯逮捕なので、否認しようもないのだが)、動機についても教団への恨みと具体的に供述しているから、十分に刑事責任能力は問えるのではないかという疑問もあるかもしれない。

 しかし、明らかになっているのは安倍元首相が天宙平和連合のイベントにメッセージを送ったことだけで、山上容疑者の母親に献金を迫ったわけではなく、もちろん家庭崩壊に追い込んだわけでもない。客観的に見れば、何の落ち度もないのに「八つ当たり」で命を奪われたわけだ。

 山上容疑者の犯行は許しがたいの一言に尽きるが、刑法39条は心神喪失者の行為は罰しない、また心神耗弱者の行為はその刑を減軽すると定めている。弁護側は法廷戦術として当然に「家庭を崩壊させられた恨みから精神的に不安定になり、善悪の判断がつかなくなっていた」として無罪主張か、罪の軽減を求めるだろう。

 しかし、検察側がこれだけの重大事件で山上容疑者を不起訴にするはずがないし、公判では完全責任能力の立証を目指すとみられている。