公判前整理手続きを経て
初公判は来年夏頃か
鑑定後は殺人罪のほか、銃刀法違反の罪などでも追起訴されるとみられるが、その後もすぐに初公判が開かれるわけではなく、公判の迅速化を図るための「公判前整理手続き」が行われる。
裁判官や検察官、弁護人が初公判前に協議し、証拠や争点を絞り込んで審理計画を立てる手続きで、非公開で行われるケースが多い。裁判員裁判の事件はすべて対象となり、ほかにも否認事件や争点が複雑かつ多岐にわたる場合も行われる。
手続きにかかる期間は裁判員裁判が始まった直後の2010年頃は3カ月前後だったが、最近は半年を超えるケースもある。今回の事件は証拠に争いはないし、山上容疑者は事実関係も認めている。争点はただ一点「刑事責任能力」に絞られるため、長期化する可能性は薄いだろう。
歴代最長政権を担った超大物政治家が参院選の街頭演説中、白昼に銃撃されるという未曽有の事件。発生直後は「テロか」と衝撃も走ったが、現時点で報じられている範囲では政治的背景はまったくうかがえない。
今後の公判の行方を予想する上で参考になりそうな事件がある。08年に厚生事務次官2人の自宅が2日連続して襲撃され、2人が殺害された事件だ。当初はテロが疑われたが、小泉毅死刑囚(60)の動機は「子どものころ、保健所に殺処分された愛犬『チロ』の仇(あだ)討ち」という一般的には理解不能な内容だった。
しかし、最高裁は「長期間にわたり殺害の対象者を選び、凶器なども周到に準備しており、計画性は高い」などとして完全責任能力を認め、その上で「犯行は独善的で酌量の余地はなく、更生の意欲も感じられない」として、上告を棄却していた。
山上容疑者による銃撃事件も計画性は高く、多くの人を巻き込む可能性がある危険な犯行だったが、被害者は1人だ。検察側による死刑求刑はあるかもしれないが、判決で極刑はまずないと思う。
初公判は早ければ来年夏頃までには開かれると思うが、事件としては「卑劣な政治犯」ではなく「恨む相手を間違えた哀れな被告」として裁かれるのではないだろうか。