日本経済の長期停滞をもたらした最大の要因は、企業がもうかってもため込んで、人的資本投資や無形資産投資を怠り、賃上げに消極的だったことにある。では、企業にそうさせた要因は何だったのか。分析・検証する。(BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト 河野龍太郎)
なぜ企業はもうかってもため込み
人的投資と賃上げに消極的なのか
時節柄、異次元緩和の総括を頼まれることが多い。
異次元緩和の直接のきっかけは、2010年代初頭の円高だが、当時、金融緩和の不足やそれがもたらすデフレが日本の長期停滞の原因といった見解が政治的に広く支持を得て、政治学的に言えば、「(リフレ)政策の窓」を開いた。
結果はどうだったのか。政策当局は、安定的な2%インフレ目標には到達していないものの、デフレではない状況になったという。ならば、日本経済の成長率は高まり、少しでも豊かになったのだろうか。
残念ながら、2010年代の潜在成長率は、2000年代と同様の0.6%で、長期停滞は変わらない。つまり、9年半に及ぶ異次元緩和の実験で明らかになったのは、デフレや金融緩和の不足が長期停滞の原因ではなかった、ということである。
むしろ完全雇用になっても、異次元緩和を続けたことが多くの弊害を生んだと筆者は考えている。例えば、企業業績が過去最高を続けても、預金者の金利収入はおおむねゼロのままであり、名目賃金もさほど増えなかった。
ゼロ金利が円安傾向をもたらし、最近のインフレ上昇で実質賃金は減少している。ゼロ金利政策や円安なしでは生き残れない低生産性企業が増えたため、潜在成長率の回復が遅れ、実質賃金の改善が滞った可能性もある。
我々は見当違いの政策を続けていたようだが、一体、何が日本の長期停滞の真因であり、それは何によってもたらされたのか。次ページから分析していく