中国で鉄道ファンが増えている
中国では近年、経済発展やコロナ禍の影響でマイカー移動も増えているが、広大な国であり、都市間移動の第一選択は鉄道だ。2010年代は高速鉄道が猛烈な勢いで路線を拡大したが、在来線もまだ健在。運賃が安く、宿泊代も節約できる夜行列車や、車内を寝台車とした専用の夜行寝台高速鉄道などもできており、日本ではあまり楽しめなくなった形態の旅もできるとあって、「日本のような鉄道オタクが中国にも増えています」(何氏)という。日本ではごく普通に見られる、新幹線のホームで男の子が車両をバックに写真を撮るような場面も、最近は中国でも見られるようになってきたそうだ。
そうした鉄道ファンなのか、価格が日本の2倍になっても、中国のネット上にある鉄道ショップで、日本語版の「中国鉄道時刻表」を買い求める人たちがいるという。
「漢字なので、中国の人が見ても理解できるし、やはり、私たちと同じように、時刻表のページをめくっているだけで楽しいと感じるのではないでしょうか。中国ではネットでしか時刻表を見られなくなりましたが、紙であれば資料的価値があり、変遷も分かる。一冊になっていれば、全体を見渡せる俯瞰(ふかん)性、一覧性もあります。今の姿をずっと手元に保存しておきたいというファン心理も満たされる。ネットだとデータが上書きされてしまい、前のデータは消えてしまうからです。そういう意味でも、今後も紙版の時刻表にこだわって、編集していきたいと思います」(何氏)
何氏に言われて私は初めて気付いたのだが、中国の鉄道は生活の場と離れた場所を走っていることが多い。駅が近付いてきて初めて民家やビルが突然現れてくるというイメージだ。日本では、桜並木や菜の花畑、民家のすぐ脇など、列車が人里を走るところも多く、インスタ映えするスポットが多いし、撮影する場合も、列車にかなり近付くことが可能だ。
しかし、中国の場合、高速道路のようなエリアを列車が走ることが多く、長い区間に柵があって撮影しにくいことが多い。確かに中国では、列車の中から見る風景はあまり変わらず、日本のように、住民が列車に向かって手を振り、こちらも振り返す、といった心温まるシーンはほとんどない。だが、雄大さや壮大さという点で中国の景色は日本では見られないものばかりだ。
最後に、2人にコロナ後に行ってみたい路線について聞いてみた。何氏は新疆ウイグル自治区とカザフスタンの国境付近にあるタクラマカン砂漠の環状線、和田(ホータン)―庫爾勒(コルラ)あたりと答えてくれた。タクラマカン砂漠を駆け抜ける夜汽車に旅愁を感じるそうだ。twinrail氏は、内モンゴル自治区の呼和浩特(フフホト)から近い集寧南―二連までの集二線を挙げてくれた。モンゴルのウランバートルに続く草原地帯で、ダイナミックな車窓が楽しめるという。
コロナが収束したら、私も時刻表を片手に中国で鉄道の旅をしてみたい。そんな楽しい気持ちにさせられた。