新型コロナウイルスの感染拡大によって、働き方や人間関係などに大きな変化があった人もいるのではないだろうか。これからどう生きていくのが自分にとって幸せなのか、立ち止まって考えたくなった人にぜひ読んでほしいのが、『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著 藤田麗子訳)だ。読者からは、「1ページ目から涙が出た」「すべての文章が刺さった」「大切な人にプレゼントしたい」との感想が多数寄せられている。歌手、タレントとして活躍中の堀ちえみさんも本書に共感したうちの一人。堀さんはこの本はまさに人生のバイブル。幸せになれる方法がつまっている」と語る。ステージ4の舌がんの治療を終えたあと、さらに食道がんが見つかり、二度にわたるがんの闘病生活を乗り越えた堀さん。来年にはデビュー40周年のライブコンサートも予定している。今回は堀さんに本書の共感したポイントを聞き、幸せに生きるためのコツについて教えてもらった(第1回/全3回)。(取材・構成/林えり、文・撮影/ryoco)

堀ちえみ、闘病生活を通して気づいた「幸せに生きるために大切なこと」とは?Photo by ryoco

「自分より他人を優先してしまうあなたへ」

――『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』を購入されたきっかけをお聞かせください。

堀ちえみ(以下、堀):わたしはよく本屋さんへふらっと立ち寄るのですが、そこでたまたま手に取ったことがきっかけですね。

 本屋さんって目的がなくても、今はこういうものが流行っているんだなというトレンドがわかりますし、いるだけで情報がたくさん目に入って来るので本屋さんへ行くのが好きなんです。

―― 本書のどこに惹かれて手に取られたのでしょうか?

堀:絵本と見間違えるくらい装丁が可愛かったこともあるのですが、やはり『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』というタイトルにとても惹かれました。

 カバーをめくると、「自分よりも他人を優先してしまうあなたへ」という言葉が飛び込んできて、ドキッとしましたね。きっと中身もおもしろいにちがいないと思い購入しました。

――ありがとうございます。本書でご自身と重なるようなシチュエーションはありましたか?

堀:「つらくても声に出せないあなたへ」「周りの人をがっかりさせないように、大丈夫なふりをした」と「繊細な人は、自分の言葉と行動をたびたび振り返ってよくない部分を直そうとする」という文章にとても共感を覚えました。

 私も幼いときは、母に怒られるとか、周りは一体どう思っているんだろうとか、そのようなことをよく考える子どもだったので、当時の自分に読ませたかったですね。

――アイドルとして活躍されていた堀さんがそのような感情をお持ちだったことに驚きました。

堀:オーディションに受かりアイドルになってからは、自信をつけることはできたのですが、「三つ子の魂百まで」ということわざにもあるように、再び周りを気にするようになってしまいました。

 他人の行動を深読みして、自分が発した言葉について「あんなこと言わなきゃよかった」と振り返る以前の自分に戻ってしまったのです。

幸せになるためには「自分がどうしたいか」が重要

――ご両親のしつけは厳しかったのでしょうか?

堀:厳しかったですし、否定的でしたね。芸能界に入るときも反対されましたし、逆に辞めるときも反対してきました。

 両親は親の言う通りにしていれば間違いない、逆に聞かなければバチが当たる、そんな考えを持っている人で、わたし自身も影響されてしまったように思います。

 何かアクシデントが起きると、自分がよくないことをしたからではないかと、自分で粗探しをするようになっていました。

 また芸能の仕事をしていると、SNSなどで叩かれることもあります。そこで言われた言葉と親に言われた言葉がオーバーラップして突き刺ささることはよくありました。

――ご著書の『今はつらくても、きっと前を向ける』(堀ちえみ・清水研共著/ビジネス社刊)でも誹謗中傷されたご経験について語られていらっしゃいましたね。

堀:はい。たとえば食事に行ったことをブログに書くと、詐病などとネットで誹謗中傷されたこともありました。

 主人からは「そういうことを言う人たちの考えは理解できるわけないから、もう考えないほうがいいよ」と言われたのですが、それでも「どうしてこんなことを言われるんだろう。そこを直さないといけないのかな」という思いが出てきてしまいます。

 幼い頃から形成されていった性格はやはり根が深いのかもしれません。

 どれだけおかしなことを言われていても、自分が何か誤解させるようなことを言ってしまったんじゃないかと思ってしまうんです。

――ご闘病生活を通じて何か変化はありましたか?

堀:病気になってからは、幸せに生きるためには、他人のことよりもまずは自分のことを考えないとダメだと思うようになっていきました。

 以前だったら、自分の幸せを実現することは身勝手になることかもしれないと思っていました。

 けれども、その考え自体が不幸なことなのかもしれません。

――やはり自分より他人をつい優先してしまう人は多いと思います。

堀:そうですね。親が反対したからとか、期待に応えなきゃとか、そういったことを気にして従順になってしまう人は多いと思います。

 でも、そういう方たちには、自分の人生は誰のための人生なのか、ということを意識してほしいですね。

 わたしは離婚を2回経験していますが、当時は子どものことを考えた場合、離婚するのとこのまま我慢するのとではどっちがいいのだろうと考えていました。

 子どもの幸せが自分の幸せにつながっているのだから、その考えも間違いではないのですが、今振り返ってみると、子どもがどう思うかよりも、自分はどうなのか、を考えてもよかったのかなと思います。

――本書は堀さんにとってどのような存在でしょうか?

堀:実は手術後もあまり気持ちが安定していませんでした。

 自分ががんから生き延びてしまったのが良くなかったのではないか、そんな思いを抱いていたときに、がん専門の精神科医の清水研先生に出会いました。

 わたしは主人や清水先生のおかげで凝り固まった考え方をほぐすことができましたが、この『大丈夫じゃないのに、大丈夫なふりをした』はそうした考え方を柔軟にするエッセンスが凝縮されていて、読者に寄り添ってくれる1冊だなと思います。

――実は12歳から、88歳まで、幅広い方々からご感想をいただいています。

:そうなんですね。母親が娘にかけている言葉だったり、夫婦の話だったり、たまたま乗り合わせたタクシー運転手の言葉だったり、いろいろな設定の方がたくさん登場するので、これはまさに人生のバイブルですよね。

 幸せになれる方法がつまっている素敵な本だなと思います。

堀ちえみ、闘病生活を通して気づいた「幸せに生きるために大切なこと」とは?Photo by ryoco
堀ちえみ(ほり・ちえみ)
歌手・タレント
1967年2月15日、大阪府堺市出身。第6回ホリプロタレントスカウトキャラバンで芸能界入りし、1982年3月「潮風の少女」でデビュー。1983年に出演したドラマ「スチュワーデス物語」が日本中で大ヒットし、アイドルとして歌にドラマに活躍。7児の母として、テレビ出演の他、教育や食育にまつわるトークショー、音楽活動など幅広く活動していたが、2019年1月にステージ4の舌がんと診断され、舌の6割以上と、首リンパに転移していた腫瘍を同時に切除する大手術を受ける。その後、リハビリに励んで順調に回復し、2020年1月より仕事に復帰。現在は芸能活動の傍ら、口腔がん撲滅運動に参加するなど、自身の体験をがんの知識の啓蒙に役立てたいと願い、活動の幅を広げている。2022年デビュー40周年を迎え、日々ボイストレーニングやリハビリを行い、 2023年に40周年のアニバーサリーコンサートを開催決定。