インフレなのに金融緩和継続?日銀・黒田総裁が踏み切った「危険な賭け」物価上昇率に負けない賃上げを期待したいというのは危険な賭けになりそうだ(衆院財務金融委員会で答弁する日銀の黒田東彦総裁(右)。左は鈴木俊一財務相) Photo:JIJI

日銀・金融政策の変遷
テーパリングが進められる

 日銀は、2016年9月の金融政策決定会合で、金融緩和強化のための新しい枠組みと称し、(今に続く)イールドカーブ・コントロールとオーバーシュート型コミットメントを導入した。

 イールドカーブ・コントロールでは、イールドカーブ全体を低い水準で推移させることになった。その上で、オーバーシュート型コミットメントでは、2%の物価安定目標を安定的に持続するまで「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和」を継続するという従来からのコミットメントに、消費者物価の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベース残高の拡大方針を継続するというコミットメントが加わった。

 しかし一方で、金融調節の目標であったマネタリーベースや日銀保有長期国債残高の年間増加目標(ともに80兆円)は終了となり、イールドカーブ(政策金利-0.1%と10年金利ゼロ%程度)が金融調節の目標に切り替えられた。これにより日銀は、マネタリーベースなど量の目標の縛りから解放されることになった。

 目標ではなくなったマネタリーベースと日銀保有長期国債残高は、その後順調に増加ペースを低下させ、ほぼ横ばいでの推移に近づいてきた。事実上のテーパリングが進行したことになる。

 金融緩和強化のための新しい枠組み導入以降の金融政策は、コミットメントやフォワードガイダンスで日銀のデフレと戦う姿勢をアピールする一方、テーパリングを進めてマネタリーベースの膨張を抑え、同時に金利調節の自由度を高めていくようになる。

 分かりにくいという批判はあるが、日銀は置かれた厳しい環境下で、何とか資産の膨張を抑えようという方針が理解された。