GAFAとは異なる
データの所有構造で勝つ

 しかし、グローバル・デジタル・サステナブルの3潮流が同時に展開する2020年代には、三つのチャンスが顕在化してきます。

 第一に、中国との国際賃金差の縮小です。05年前後には中国でも労働力の無制限供給期が終わり、その後の賃金急上昇で、日中賃金差は20年代には2、3倍にまで縮小。生産性を高めてきた日本の国内有力工場であれば、昨今の円安抜きでも十分に戦えます

 第二に、デジタル経済におけるサイバーフィジカル層の出現です。私は、下の図のように産業構造を3層に分けて考えます。

 GAFAなどが他者間のマッチングデータを勝手に占有することで成立したサイバー層(上空)の消費財系プラットフォームでは、人口シェアで米中に劣る日本企業は存在感を欠きました。しかし、今後成長する生産財系のプラットフォームでは、データの所有構造が変わります。「地上」の設備を保有する企業(アセットユーザー)が設備のコントロールデータを所有し、信頼できる生産企業(アセットメーカー)などとそのデータを共有します。

 競争の場も「低空」のサイバーフィジカル層、すなわち地上(生産・物流現場)とリアルタイム接続し上空(インターネット・クラウド)と常時接続する仮想空間が加わります。こうなると、地上で擦り合わせ型製品の良い設計の良い流れで競争優位、設備の設置台数シェア、顧客との信頼関係を築いてきた日本の有力企業にもチャンスが来ます。

 第三に、世界的な供給継続危機を背景とした納期重視の傾向です。コロナ禍や災害・戦禍などでグローバルな供給網の継続性維持が難しい局面で、サプライチェーン遮断による自社の逸失利益を深刻視する顧客企業は、コスト以上に納期順守を重視します。すると、価格は高いが品質が良く、納期の信頼性も高い日本の国内工場の評価は高まりやすいのです。

 この状況で日本企業が採りうる戦略を3層に分けて考えてみます。

 まず上空戦略。日本企業はグローバルなメガプラットフォーマー(MPF)になるのは難しいですが、MPFや有力補完財企業に対して、自社が設計の比較優位を持つ高機能な部品や装置を自社標準で売り切るアーキテクチャ戦略は高利益・高成長をもたらします。

 次に地上戦略。日本企業が設計の比較優位を持つ擦り合わせ型アーキテクチャの製品は、概して専用部品等の変種変量変流生産を要求されます。この種の複雑な流れの工場では、仕掛品の渋滞現象が例えば1時間後にどこで発生するか予想が難しく、コスト低減のため稼働率を上げれば納期の遅延が発生しやすい。

 こうした複雑な流れを予測し制御できるのは日本に多い、現場の多能工チームが自動機器や人工知能と連携して流れを制御する協働型スマート工場です。

 最後に低空戦略。擦り合わせ型の製造設備など、高機能生産財で設計の比較優位を持つ日本の優良製造企業は、顧客である設備ユーザー企業に対し、高いアセット(設備設置)シェアや信頼関係を構築してきました。この強みを生かし、地上の顧客設備から発生する低空系のコントロールデータ等を共有させてもらい、それを活用したソリューションサービスで顧客を勝たせ、自社ももうける。

 さらに、複数のアセットメーカーが企業を超えた連携で、顧客の商売プロセス全体を勝たせる低空型データプラットフォームも有望でしょう。

 どの階層に力点を置くかは、産業・企業によります。先行事例の共通点は、当該企業が付加価値の良い流れを作り、そこから自社標準の貫徹(上空戦略)、顧客データの共有(低空戦略)、高度な変種変量変流生産(地上戦略)へと向かっていることです。