ダニエル・ピンクの
人生最大の後悔は?

ダニエル・ピンク氏1

ピンク まず、若い頃、キャリア選択を誤ったことだ。例えば、大学卒業後に初めて就いたのは公益団体の仕事だったが、実にひどいものだった。あんな仕事を選んでしまったことを心から悔やんでいる。就職活動の際、十分なリサーチをせず、思い込みばかりが先行していた。自分の考えに凝り固まっていたのだ。

 そうした経験について、「大した問題じゃないさ」「後悔なんかするものか」と開き直ることもできるし、逆に「なんてこった! 俺はなんという愚か者なんだ!」「世界一の大バカ者だ!」と、自分を責めることもできる。だが、どちらもまずい。

 では、どうすべきか――。それは、「ばかげた決断をしたものだ」と認めたうえで、「そこから何を学び、どのような教訓を得られるだろうか」と思いを巡らせることだ。

――人生最大の後悔は何ですか。

ピンク 若い頃、人への優しさが足りなかったことだ。周りの人がぞんざいな扱いをされたり、仲間外れにされたり、公正に扱われなかったりするのを見て、「おかしい」と感じつつ、何も言わず、何も行動しなかったことを悔やんでいる。その後悔は長年にわたって、私を苦しめ続けた。

「ポジティブであれ。そんなことを後悔するなんて、良くないぞ」と、後悔を封印することもできたし、「俺はなんてひどい人間なんだ!」と、自分を責め立てることもできた。

 だが、私は考えた。20~30年も昔の出来事をいまだに引きずっているということは、その後悔が、何か強いシグナルを発しているのだと。だから、それに耳を傾けなければならないのだと。そのシグナルは、私が価値を置いているものを明らかにし、より良い人間になるにはどうすべきかを指南してくれる。

 そのシグナルに耳を傾けたことで、私は自分自身が考えているよりも人への優しさを気にかけている、ということがわかった。そして、もう二度とそうした後悔を感じなくて済むようにするには、行動を変える必要があると。ネガティブな感情は、私たちが進んで耳を傾ければ、いろいろなことを教えてくれる。

 私が本を書くために実施したオンライン調査でわかったことだが、過去のいじめを悔やんでいる人は実に多い。私自身は人をいじめたことなどないが、人が不当な扱いを受けている場面に遭遇したことは多々ある。だが、私は見て見ぬふりをした。おかしいと知りつつ、止めに入らなかったのだ。

――勇気がなかったということですか。

ピンク そのとおりだ。勇気がなかった。そして、後悔を克服するには、時間がかかる。昨年、あるいは先週、いや昨日下した決断でさえ、ほとんど覚えていない一方で、自分がやった行いや、やらなかったことについては、20~30年たっても思いわずらうことが多い。つまり、それが後悔であり、何か強いシグナルを発しているのだ。

 繰り返すが、私たちは、それに耳を傾けなければならない。そのシグナルの意味を考え、どう改善すべきか、ネガティブな感情を二度と感じないようにするにはどうしたらいいのか、模索するのだ。私の場合、その答えは「人に優しくすること」だった。例えば、会議で話を遮られたり、のけ者にされたりする人がいたら、その人が輪の中に入れるよう、何かを提案する。不当な扱いを受けている人がいれば、「勇気」を出して声を上げる。

 後悔は、私に何かを教えてくれる「教師」だ。無視したり、恐れたりしてはいけない。