1万6000人の「後悔」を分析
そこから明らかになった4類型
――オンライン調査には世界105カ国から1万6000人以上の人々が参加し、自分自身の「後悔」を打ち明けてくれたそうですね。
ピンク 本の出版以降、もっと数が増えた。現在、世界109カ国から、2万3000人を超える人々の「後悔」が集まっている。執筆時点では1万6000人超だったが、その結果を分析して大いに驚いたのは、後悔が、いかに万国共通で普遍的なものかということだ。そして、4種類に分類されることがわかった。
まず、「foundation regret(ファンデーション・リグレット)」。人生の基盤を築かなかったという後悔だ。人生の早い段階で行った小さな決断の数々が積もり積もって、人生の半ばを過ぎた頃に悪い結果を引き起こすことを指す。学校であまり勉強しなかった、お金を倹約しなかった、運動や健康的な食事を心がけなかった、などの後悔だ。
次が「boldness regret(ボールドネス・リグレット)」。大胆に行動しなかったという後悔だ。安全な道を歩みすぎた、チャンスをつかみ損ねた、好きな人をデートに誘わなかった、起業しなかった、旅行しなかった、何かに対して声を上げなかったなど、「勇気」にまつわる後悔だ。
3つ目は「moral regret(モラル・リグレット)」、道徳や良心に関する後悔だ。配偶者を裏切った、誰かをだました、不正を働いた、うそをついた、人をいじめたなど、「道徳的に間違っている行い」を悔やむことだ。「正しい行いをすればよかった」という後悔だ。
最後が「connection regret(コネクション・リグレット)」、人とのつながりや人間関係にまつわる後悔だ。友人などと疎遠になり、そのままにしてしまったことを悔やむ気持ちだ。
――具体的なエピソードを紹介してください。
ピンク 秀逸なものが実に多い。日本からも数百件集まった。オンライン調査では、まず匿名で後悔を告白してもらい、メールアドレスの記入という選択肢を設けた。アドレスを残してくれた人々のうち、約180人にズームでインタビューした。コロナ禍の真っ最中だったからね。
例えば、米カリフォルニア州に住むエイミーという女性は、人とのつながりにまつわる後悔を打ち明けてくれた。子供時代に親友だった女性と成人後も仲良くしていたが、徐々に疎遠になり、親交が途切れた。
だが、ある時、その友人ががんで、かなり具合が悪いことがわかった。自分が心配していることを伝えようとしたが、何年も話していなかったため、気まずさを感じ、躊躇(ちゅうちょ)した。電話をかけることを引き延ばしていたが、ある日、思い切って旧友の家に電話をかけたところ、その日の朝早く、彼女が亡くなったことを知った。時すでに遅し、もう「ドアが閉まった後」だった。
そこで、エイミーはその後悔を生かし、別の友人が重い病に倒れたとき、携帯電話でメッセージを送り、その友人を訪ねた。二度と同じような思いを味わいたくなかったからだ。エイミーは、後悔というネガティブな感情を利用し、将来の行動につなげたのだ。
大胆に行動しなかったという後悔も実に興味深い。起業しなかったことを悔やむ人や、十分に旅をしなかったことを悔やむ人が大勢いる。なかでも、好きな人をデートに誘わなかったことを悔やむ人が、なんと多いことか! 「クレイジー」と言ってもいいほどの数だ。これほど多くの人々が、気になる相手をデートに誘わなかったことを悔やんでいるとは!
――4種類の後悔のうち、どれが最も深刻でしょうか。
ピンク 何とも言い難い。とはいえ、いじめなど、道徳的に間違ったことをして誰かを傷つけると、自分も嫌な気分になるため、道徳や良心に関する後悔は根が深い。だが、4つのカテゴリーのうち、最も数が少なかった。割合は小さいが、最も大きな苦痛を感じるものが道徳的な後悔だ。
最多だったのは、人とのつながりや人間関係にまつわる後悔だ。次に多かったのが、大胆に行動しなかったという後悔だ。苦悩の大きさでは、道徳的な後悔がトップに挙げられる。
――誰かをいじめる人が後悔などするものでしょうか。ハラスメントをするような人も?
ピンク もちろんだ。多少時間はかかるだろうが、非常に多くの人々がいじめを後悔している。私の調査でも、世界中から、実に多くの人々が、いじめにまつわる後悔を打ち明けてくれた。先ほど話した、人への優しさに関する私の後悔も似たようなものだ。もっとも、いじめを行った人が、一人残らず後悔するわけではないだろうがね。
だが、すぐに後悔はしなくても、年を重ね、成長していくうちに思慮深くなり、世界に対する理解が深まり、後悔の念を抱くようになる。いじめを行った人々も、私たちが考えるより、時間を経ることで後悔するようになると思う。
例えば、部下にパワハラを働く男性上司が後悔を感じた場合、できることは、まず部下に謝ること。そして、パワハラをやめることだ。今回の調査でも、いじめた相手に謝ったという回答者が複数いた。最も大切なのは、もう二度と、いじめやパワハラをやらないこと。つまり、人々に敬意を持って接することだ。