1回に食べられる量が少ないなど食事に少々不自由があること、手術の後遺症で空咳が出やすいこと(2、3カ月続くらしい)を除いて大きな不都合はなく、手術前よりも数キロ痩せたが、体力は6割程度回復している。抗がん剤でそれなりに脱毛したので、坊主頭にして頭髪の復帰を待っているが(かなり戻ってきた)、坊主頭もそれなりに気に入っていて、これは不都合のうちに入らない。
しかし、食道がんは再発・転移しやすいので今後も安心だとはいえないが、今心配してもできることはない。現在は、快復過程にあると理解して日常を過ごしている。
筆者は、これまでに大きな病気をしたことがなかったし、まして、がんにかかるのは初めてだった。今回、このような病を得てあれこれを考え、幾つか決断を迫られてみると、がん患者の状況は、投資の初心者が直面する問題とよく似ているのではないかと思った。
情報の「収集」と
「制限」と
大きな病気にかかると、誰でもまずは病気について情報収集したいと思うだろう。治る確率、治療方法の選択肢などについて知りたい。病院や医師の評判も気になる。
ただし、ここで悩ましいのが、情報がたくさんあり過ぎることだ。がんについては、インターネットにも書籍にも、そして周囲の人々のクチコミにも、おびただしい情報が溢れている。
この状況は、投資を始めようと思った初心者も同じではないだろうか。例えば書店に赴いたとして、どの本が信頼できるのか判別することは簡単ではない。テレビや雑誌で顔や名前を見たことのある著書の本に親近感を覚えるかもしれないが、これはあまり信頼のおける選択基準ではない。
そして情報を探す場合以上に困るのは、「実は、私はがんなのだ」と明かすと、おびただしい数の「教えたい人」が群がってくることだ。多くの人は心から親切で何らかの情報を伝えてくれようとするので、彼らを「教えたい人」と総括するのは申し訳ないのだが、検討には時間を使うし、返答には気を使う。
教えていただいた情報には、身内にいるがんの名医、富裕層の一部で知られている秘薬、身体にいい水、検証論文が存在するありがたいサプリメント、数十種類の食材による食事でがんが治った話、遺伝子科学の論文、温熱やマッサージなどの治療、等々があった。全てを検討する時間はないし、試してみるのも難しい。しかし、中には役に立った情報もあった。まことに悩ましい。
ただ、はっきりしていると思われたのは、情報の流入を制限しないと対処しきれなくなるし、ストレスが増えるということだ。