「自分に知識がないのに、誰の知識を正しいものとして信頼するのか?」という根本的な問題はあるが、がん患者だけでなく、投資家も自分に流入してくる情報を制御することは必要だろう。しかし、投資の初心者にとって、それが容易でないことは想像がつく。だからこそ、世間には明らかにダメだと思われる運用商品が多数存在しているのだろう。

 一方、投資家に情報を提供する側としては、特に初心者の投資家からなるべく早い時点で信頼を得るにはどうしたらいいかを考えることが大事だと考えた。投資家自身の時間の節約のためにも重要だし、投資家が悪い先入観を持ってしまうと後から正しいことを教えるのに大いに苦労することがある。

 がんにならなくても考えるべきことだが、がんになってみて、改めて思った。

精神衛生の面から大事な
対人関係のシンプル化

 情報過多にならないための対策としても有効だし、精神衛生の良い状態で療養に取り組むためには、療養期間中に対人関係をシンプルにすることも大事だと思う。

 訪問や物による「お見舞い」への対応も気を遣うし、最近はSNSなどというある意味では余計なものがあるので、メッセージへの返信の手間なども考えておく方がいい。

 新型コロナウイルスの影響で、家族や親しい友人も含めて外部の人間が入院患者に会うことができない状態だったことは、療養上は幸いだった。入院を聞きつけて、病院に「面会できないか」と連絡してくれた友達がいたが、会うとなると面倒だったろう。

 筆者は、個室(シャワー付きだがVIPルームではない程度の個室)に入院していたが、リアルなお見舞いがないとしても、メールやメッセージのやり取りが増えると時間を取られたことだろうと思う。かなり親しい友人なども含めて、がんで入院していることを伏せておいたのは正解だった。

 同情してもらおうとして友人に連絡を取ったりすると、少なくとも、その後の経過の報告相手が増えることになる。また、親しい友人が、例の「教えたい人」にならないとも限らない。想像してみるといい。教えることができる立場になってみると、それを我慢するのは結構大変なことだ。

 さて、やりとりをする相手、特に取引する金融機関が増えることは、多くの場合投資家にとって好ましくない。だが、率直に言って、金融機関から「構ってほしい」と感じている投資家は少なくない。

 投資に関わる取引は「構ってもらうための対価」としては、割に合わないほど大きい場合がほとんどであることに注意しよう。

 なお、筆者が入院した病院では、個室にパソコンを持ち込んで仕事をすることが可能だった。当連載なども含めて仕事に穴を空けずに済んだのは幸いだった。