治療方針の選択
手術か、放射線治療か

 診療ガイドラインなどを参考に治療方針を絞り込むと、筆者の場合、まず抗がん剤投与の治療を2巡(1回に10日〜2週間程度の入院だ)行った後に、手術を行うか、放射線で治療するかの選択肢があった。

 主治医には手術がうまい人を選んだので、筆者自身が事前に「だいたいは手術だろう」と決めていたし、意見を聞いていた5人の医師も全て「手術できるなら(=手術でがんを取り切れる見込みがあるなら)、手術を選択する」という意見だった。明確な比較データがあるわけではないが(筆者は見つけられなかった)、手術の方が放射線よりも、生存率の数字でいうと10%程度治療成績がいいのではないか、というくらいに思われた。

 ただ、手術を選択した場合、(1)神経との関係で声や発声に影響が出る場合がある、(2)嚥下(えんげ、飲み込み)等に不具合が起こる可能性がある、(3)胃を引き伸ばして食道の役割をさせるので食事の量が減る、といったリスクや問題が考えられた。

 筆者は、より多くの時間を使っているのは「書く」仕事かもしれないが、講演や動画に加えて広い意味でのコンサルティングも「話す」仕事であり、経済的には後者の方がより重要かもしれない。治癒の確率と(1)の可能性を秤にかける必要性を感じた。

 この点は、主治医に率直に相談して良かったと思っている。もともと患者の体の負担が小さい「丁寧な手術」をすると評判の先生だったが、(1)、(2)の問題を100%クリアした、完璧だと思える手術をしてくれた(術後の回復も期待を上回って順調だ)。手術の翌日に問題なく声が出た時には、大変嬉しかったし、安心した。

 投資の場合、医師のような他人に結果の一部を委ねるのではなく、最終的には全てを自分で決める覚悟が必要だ。ただ、明示的に確率について考えてみることと、うまくいった場合とうまくいかなかった場合の両方について、「その後にどうするか」を考えてみることは大切だと思う。

 投資の場合は、万一失敗してもお金で済む話なので、がん治療の選択よりは気楽に考えられるはずだ。