日本銀行Photo:PIXTA

日本銀行が発表した昨年12月の政策修正は、多くの投資家や市場関係者に驚きをもたらした。金融市場では、金利上昇や株安などにつながったが、日銀の新たな決定を「引き締め」と断じるのは早計だ。その理由を三つのポイントからひもといたうえで、今後の注目点を展望した。

12月の日銀の政策決定は
「引き締め」ではない

 きょうから日本銀行の2023年最初の金融政策決定会合(結果発表は1月18日)が開かれるが、昨年12月の政策修正では、金融政策を分析・注視する多くの関係者にサプライズをもたらした。

 長短金利操作の枠組みは変えないものの、長期金利の変動幅を従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大すると決めたことが、「実質利上げ」と受け止められ、株価は下落し、金利が上昇したのである。

 今春には執行部の交代も控え、日銀の政策は変化が予想される。そこで以下では、12月の決定会合の内容を敷衍(ふえん)しつつ、今後の金融政策の見通しについて議論したい。

 まず、政策修正について振り返ろう。ポイントは大きく三つある。一つ目に、今回の決定は引き締めを意味せず、「実質利上げ」と言えるかどうかは、今後の経済動向に依存するということだ。

 決定会合の公表文書(ステートメント)をみると、日銀は次回の決定会合までの金融市場調節方針として、短期金利マイナス0.1%、10年債金利をゼロ%程度とする長短金利操作を決定したと記載している。

 そして、今回新たに追加された文言では、長短金利操作(イールドカーブコントロール)の運用として、国債買い入れ額を月間7.3兆円から9兆円程度に増額することを表明するとともに、長期金利の変動幅を、従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」に拡大すると記した。

 また、ETF、J-REIT、CP等、社債等の資産の買い入れ方針については変更しなかったものの、「ただし、社債等の買い入れ残高の調整は、社債の発行環境に十分配慮して進めることとする」との一文も追加した。

 以上のように、「短期金利マイナス0.1%、10年債金利をゼロ%」とする長短金利操作の枠組み自体は変えておらず、日銀が10月会合と同様、金融緩和を継続していることを意味している。

 つまり、引き締めに転じてはいないということだ。仮に10年債金利を0%程度ではなく0.5%程度に「利上げ」するのであれば、日銀は公表文書に「10年債金利を0.5%程度とする長短金利操作を決定した」と記載するだろう。

 そもそも、長短金利操作とは、横軸に満期までの期間(残存年限)、縦軸に名目金利をとった名目イールドカーブを好ましい形状にすべく、短期金利の操作と国債買い入れを行う政策である。

 そして名目イールドカーブを形成する際の基準となるのが、均衡イールドカーブである。これは、景気を加速も減速もさせないという意味で、経済に対して中立的な実質イールドカーブである。

 よって、今回の政策決定が緩和的なのか引き締め的なのかを判断するには、政策決定の結果として成立する名目イールドカーブから、予想物価上昇率を差し引いた実質イールドカーブが均衡イールドカーブを下回るか否かがポイントとなる。

 次ページ以降では、五つの図表を示しながら、政策修正の第2、第3のポイントについても分析。そのうえで今後、政策の方向性を読み解くために重要な論点を展望していく。