個人も企業も大混乱! インボイス&改正電帳法の落とし穴 #15Photo:wutwhanfoto/gettyimages

インボイスへの対応に欠かせないのが会計などのITシステムの改修だ。対応が必要になるのは請求書を発行する企業や個人事業主だけではない。インボイスを受け取る側の企業のITシステムにも、非常に煩雑で厄介な改修が必要になるのだ。特集『個人も企業も大混乱! インボイス&改正電帳法の落とし穴』(全15回)の最終回では、ITシステム面から見たインボイス対応の無理難題に迫る。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

対応が必要な当事者も理解していない
インボイスIT対応の無理難題

 10月に始まるインボイス制度を前に、今、ちょっとした特需に沸く業界がある。会計や経理にまつわるITシステムを手掛けるソフトウエア企業や、システム改修を行うコンサルティング企業だ。「顧客の要望が殺到し、全てのリクエストに対応できていない状態」とPwC税理士法人パートナーの村上高士氏は明かす。

 大手クラウド会計システムのfreeeが開催するインボイスセミナーには、毎回300人以上の参加者が押し寄せる。同社は、中堅企業向けのマーケティング活動費用の8~9割をインボイスに全て振り、インボイス対応の請求書発行システムを無料で開放するなど商機を狙う。

 また、デロイト トーマツ税理士法人では、税理士業界では希少な消費税専門の税理士から成る専門チームを置き、さらに監査法人側にITシステム対応のチームも設けて対応している。

 なぜインボイス対応は大変なのか。それはひとえに、対応しなければならない人と企業の数が多いからだ。インボイスを発行する適格請求書発行事業者(適格事業者)だけではない。適格事業者からインボイスを受け取る全ての企業も対象となる。

 ところが、「当社が行った調査によると、インボイスの受け取り手に必要な対策の内容の認知度が低い。特に中小企業や個人事業主などでは、そもそも自社・自分に対策が必要だということすら全く知らないことも多い」と、尾籠威則・freee主席コンサルタントは指摘する。

 では、経理部などの財務部門がしっかりした大手企業なら対応は容易かというと、そうではない。

 そもそも自社の全ての部門において、どういうシステムで請求書を発行しているかを、経理部門が把握していないケースも多い。顧客から指定された仕様の請求書を担当部署が独自にエクセルで作ったり、購買システムも部署単位でバラバラのままで業務を行ったりしている企業もままある。そうしたカオス状態の業務とITシステムの実情と全体像を、コンサルを入れて調査・把握するところから始めなければならないことも多いのだ。

 さらに、必ずしも経理部門やIT部門が主導権を握ってシステム改修を進められるわけでもない。

 というのも、実際に免税事業者と付き合いがあるのは現場の営業などの部隊である。インボイス導入でシステムを変更するのに伴う、契約条件変更などの外部との交渉(詳細は本特集#8『インボイス10月導入で免税事業者の「取引先企業」にも負担が!?買い手側版対策マニュアル』参照)は現場に任せざるを得ない。ただ、「消費税の知見に温度差がある現場担当者に、下請法などに抵触しないように留意しつつ、全社で足並みを揃えて交渉を進める必要がある。また、経理・IT部門と営業部門などの部署間に壁がある場合、自分たちではどうしてもできないので外部アドバイザーに間を取り持って欲しいという希望もある」(デロイト トーマツグループの鈴木肇パートナー)という。そのため、インボイス対応のシステム改修は、実質的には全社プロジェクトとなるわけである。

 さらに、インボイス対応のシステム改修には、実に細かくやっかいなポイントがたくさんある。しかも、インボイスを発行する適格事業者よりも、それを受け取る買い手企業側の方が、対応は煩雑で困難なのだ。次ページで具体的に見ていこう。