デザイン経営宣言によって、企業の中で明らかに増えたもの

「デザイン経営」が効く企業、効かない企業Kinya Tagawa
1976年東京都生まれ。東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。デザインエンジニア。プロダクト・サービスからブランドまで、テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通する。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「e-Palette Concept」のプレゼンテーション設計、日本政府の地域経済分析システム「RESAS」のプロトタイピング、Sansan「Eight」の立ち上げ、メルカリのデザインアドバイザリなどがある。経済産業省・特許庁の「デザイン経営」宣言の作成にコアメンバーとして関わった。経済産業省産業構造審議会知的財産分科会委員。グッドデザイン金賞、iF Design Award、ニューヨーク近代美術館パーマネントコレクション、未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ認定など受賞多数。2015年から2018年までロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授を務め、2018年に同校から名誉フェローを授与された。

 提言として世に出す以上は、抽象論ではなく実効性のあるものにしたい。そう考えた私たちは「デザイン活用の少し手前にいる企業」にターゲットを絞ってメッセージを設計した。具体的には、「デザインの重要性に気付いているが、導入できていない経営者」、あるいは「経営トップにデザイン活用を進言したいと考えているマネジャー層」に向けて、デザイン経営を実践すればどんな効果が得られるのか、そのためには何が必要かを明快に示し、そうした動きをエンパワーしようとしたのだ。

 まず、デザイン経営を「イノベーション力」と「ブランド力」の向上に資する経営活動と定義した。そして、そのための必要条件として「経営チームにデザイン責任者がいること」と「事業戦略構築の最上流からデザインを関与させること」の2点を明示した。

 本宣言は確かな影響をもたらし、発表直後からCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)をはじめとするデザイン系オフィサーが大幅に増えた。特に鮮烈に反応したのがデジタル系のメガベンチャーやスタートアップで、メルカリ、DeNA、ビジョナル、マネーフォワードなどを筆頭に、次々にCDOが誕生した。20年以降は、パナソニック、NECといった日本を代表する大企業にもデザイン担当の執行役員やコーポレートエグゼクティブを置く動きが広がった。

 この動きは国にも波及した。まず18年に特許庁が日本政府の中では初めてCDOを設置。続いて、デジタル庁が21年の発足と同時にCDOを設置した。翌22年には初代CDOの浅沼尚氏が事務方トップのデジタル監に就任している。同庁は発足準備段階からデジタル系スタートアップを熱心にヒアリングして組織づくりを検討したという。国の宣言を起点として民間に広がった潮流がUターンして届いた形だ。