左から、ワークマン 営業企画部 マーケティング戦略グループ 丸田純平さん、林知幸さん、石井大樹さん左から、ワークマン 営業企画部 マーケティング戦略グループ 丸田純平さん、林知幸さん、石井大樹さん Photo by Mayumi Sakai

ワークマンはなぜ業績好調なのか。前回記事、『ワークマン「Excel経営」が超進化!次のデータ分析ツールに選んだのは?』では、好調の背景に、プログラミング言語「Python」の習得をはじめとする社内教育の充実、新たに導入したBI(ビジネスインテリジェンス)ツール「Amazon QuickSight」の活用があることを紹介した。今回は、「#ワークマン女子」「ワークマンシューズ」など、ここ数年の客層拡大戦略の裏側と、アンバサダーマーケティングについて聞いた。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

吉幾三のテレビCMから、
SNSを駆使したアンバサダーマーケティングへ転換

「行こう、みんなでワークマン」

 作業服に身を包んだ吉幾三さんが軽快に歌う、ワークマンのテレビCM。仕事の疲れを吹き飛ばし、働く意味を思い出させてくれるこのCMが放送されていたのは2013年まで。10年も前のことなのに、今もCMソングを口ずさめるのは筆者だけではないはずだ。

 今でこそ業績好調のワークマンだが、2013年頃の状況は決して芳しくなかった。主要顧客である建設技能労働者は、2040年までに4割減ると予測されている。作業服市場は、当時700店舗だったワークマンが1000店舗、1000億円となった時点で取り尽くしてしまうと言われていた。AmazonやモノタロウといったECサイトの台頭も脅威だった。

 ターニングポイントは、2013年に発売された防水防寒スーツ「イージス」が急に“変な”売れ方をし始めたことだった。もともとは寒冷地での雪かき作業などを想定して作られたニッチな製品だったのだが、データを見ると異様に売れている。

 店舗に行ってみると、ワークマンには珍しくスーツ姿の男性客が並んでいた。話を聞いてみると、あるバイク乗りがSNSで「最強の冬用バイクウエア」と紹介したことがきっかけで、同好者の間で話題になっていたことが分かった。「高機能なのに低価格」という作業服へのこだわりが、想定外のユーザーにも支持されていたのだ。

 2014年、ワークマンは客層拡大戦略を打ち立てた。同時に事業ドメインを作業服から機能性ウエアにシフト。2018年にオープンした一般向けのアウトドア・スポーツウエア店「WORKMAN Plus」を皮切りに、「#ワークマン女子」「ワークマンシューズ」「WORKMAN Plus2」など次々と新業態を展開し、女性や子ども、家族向けのラインナップを強化している。

「あのとき、イージスを異常値と切って捨てていたら、今のワークマンはなかった」。ワークマンのマーケティングをリードする林知幸さんはこう断言する。