自社の強みと思いが宿る「コア技術」を見いだす
唐沢製作所の従業員はわずか数十人。規模こそ小さいが、創業100年以上の歴史と、日常生活用の自転車(いわゆるシティサイクル)のブレーキで国内トップシェアを誇るブレーキメーカーだ。しかし、シティサイクルのようにコモディティー化が激しい製品の部品だけを手掛けていては、今後の持続的な成長は難しい。そこで、新たな主力製品の開発につながり得る技術として「ブレーキライニング」に着目した。
ブレーキライニングとは、ブレーキ機構内部の「摩擦材」だ。ブレーキの制動力の要ともいえる部品で、用途に応じて何十種類もの素材を熱硬化性樹脂で固めて作られる。同社では、長年にわたって素材の組み合わせや製法に改良を重ね、シティサイクルのブレーキに求められる「薄くて小径、かつ制動トルクが強い」という性能を磨き上げてきた。あたかも「秘伝のたれ」のごとく、他社にはまねのできない独自のコア技術として熟成させてきたのだ。
これまではブレーキメーカーとして、装置全体のアッセンブリー(組み立て加工)技術を重視してきたため、個々の要素技術はことさら「強み」として認識されてこなかった。この「コア技術」に改めて光を当て、新たな製品開発のシーズにしようと考えたのだ。
さまざまな方向性を模索する中で浮かび上がってきたのが「モビリティー市場への技術転用」の可能性だ。エンジン駆動からモーター駆動へ、大きな変革が進むモビリティー市場では、従来の乗り物の概念に収まらない新たな移動体が続々と生まれている。このうち、電動バイクや電動車いす、あるいは無人の搬送ロボットといった小型モビリティーに、シティサイクルで培ったブレーキライニング技術が生かせるのではないか、という仮説を立てたのだ。
早速技術と市場の両面から調査を実施したところ、仮説を補強するデータを得ることができた。こうして「シティサイクルのブレーキメーカー」から「未来のモビリティーを支えるブレーキ開発企業」への変革を目指す試みが始まったのだ。