飛距離が海外製と比べて20分の1、
電波干渉で操縦不能に
さらに電波の強弱によって影響を受けるのは、ドローンの飛距離だ。この点は前述した海外メーカーの現地仕様と日本仕様を比較すれば明らかで、2022年に米陸軍が短距離偵察用ドローンRQ-28Aとして正式採用した米Skydio社の機体では、米国仕様が最大6kmと表記しているのに対し、同型機種の日本仕様の国内販売を行うNTT-eドローンのウェブサイトには電波法の規制を併記した上で飛行距離を300m程度(推奨値)と記載されている。
なんと6km飛ぶドローンが、日本では20分の1になっているのだから笑えない。ただ、他のメーカーの中には、電波障害のほとんどない開けた場所における最大飛行距離の数kmを飛行可能距離として記載するなど基準も曖昧だ。
筆者の2.4GHz帯の機体操縦経験では、電波干渉がほとんどない山岳地帯では500m以上の距離を飛ばせたのに対して、WiFiルーターが複数設置された都内にある大学の室内では数mの至近距離にもかかわらず、操縦不能になるといったこともあった。操縦不能になれば、当然だが、墜落する危険がある。このような状態が自衛隊の現場で起きていることは、複数の現役陸上自衛官への取材でも明らかになっている。
最も印象に残っている自衛官のコメントは「ドローンの電源をONにして離陸準備するのにも電波障害で手間取ることがある。数百mの距離であれば、自撮り棒にカメラを着けて走った方が速い!」である。ここまで言わしめるほどに自衛隊のドローン運用に対して電波法が障害になっているのだ。これでは災害対応どころか、同盟国との連携や訓練、ましてやウクライナ軍のような活用は夢のまた夢である。
近隣諸国に目を向ければ、昨年の8月末から数件発生した中国本土から数キロの距離にある台湾の金門島にドローンが飛来する事案が発生したが、この飛距離を飛ばせるのも中国のドローンが5GHz帯の電波を使用しているからこその結果であることは間違いない。
自衛隊が公開したドローンを飛ばす写真は
法令順守のアピール
自衛隊広報が公開しているドローンを飛ばす様子の写真を見ると、ドローン1機につき必ず複数人が立ち会い、機体および上空を見ている。これこそが、規制が定める目視飛行を行っていることを示すとともに法令順守のアピールであると感じ取れる。その実、自衛隊は質的に列強から大きく劣後しているというわけだ。
筆者はその危機的かつ一刻の猶予もない状況を認識するからこそ、時に批判されながらも技術的な根拠やドローンの操縦、実験などの経験や結果に基づき可能な限り誤った言説を否定し、自衛隊のドローン運用に対する規制緩和および規制除外の声を挙げて、理解を求めてきた。
その理由は単純で、災害が多い日本では誰もが被災者になる可能性があり、国民保護の観点からも数百mしか飛べないことと数キロ飛べることとの違いによって助かる命も助からない可能性が高いと考えるからである。言い換えれば航空法、小型無人機等飛行禁止法、電波法といった規制が、ドローンを活用した自衛隊による災害対応や人名救助の妨げになっている現状がある。
防衛力強化の一環として
安定した電波利用ができるようになるか
こうした言説が幸いしてか、22年の年末に公表された安保3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の総称)における「国家防衛戦略」の項目「III 我が国の防衛の基本方針~1 我が国自身の防衛体制の強化(2) 国全体の防衛体制の強化」には「民生用の周波数利用と自衛隊の指揮統制や情報収集活動等のための周波数利用を両立させ、自衛隊が安定的かつ柔軟な電波利用を確保できるよう、関係省庁と緊密に連携する。」という記述がなされた。
しかし、いつまでに、何をするのか、具体的な記述はない。これが規制緩和の糸口になるか、それとも単なる記述だけで終わるのかによって自衛隊のドローン運用の将来が決まるだけでなく、日本の防衛や災害対応など我々国民の生命すら左右する重要事項と言っても過言ではない。
従来の自衛隊によるドローン活用に関する取り組みを一から構築し直すくらいの思い切りが必要で、規制や関連団体を含めドローンの民生利用および商用利用とはしっかり切り離して進めていくこと、が必須条件と言えるだろう。