聴覚障がいを支援するグッズが
意外な場所で活用
もう一つの事例は、聴覚障がいを持つ人への支援を想定して作られた腕時計型端末「シルウォッチ」のヒットだ。
福祉機器の開発を行う東京信友の製品で、インターホンや火災報知器、子どもの鳴き声など、日常で気づかなければならない“音”が鳴ったとき、シルウォッチが振動して音の代わりに本人へ伝えてくれる。
具体的なシステムとしては、マイクセンサーや専用ピンマイク、外付けの無線送信機を特定の場所につけて、シルウォッチと連動。その場所で音が鳴れば振動通知を行うように設定する。
音の聞こえない人に向けて作ったこの製品だが、実はいろいろなところでニーズがあったようだ。たとえば工場などの生産現場は騒音が大きく、トラブルが起きても音による伝達が難しい。そこで製造機械とシルウォッチを連携させ、エラー発生時に振動で担当者に伝える利用法が出てきたという。
そのほか、店舗や施設スタッフが音もなく緊急通知を受け取るシステムとしても活用されているという。図書館などの静かな場所ではトラブル時も静かに、場の空気を乱さず対応することが求められる。スマホで通知することも可能だが、腕時計型端末で素早く簡素に伝えるニーズもあるようだ。
シルウォッチは個人仕様向けと企業向けの製品がある。マイクセンサーや無線送信機とのシステム連携はユーザー自身で行うのだが、そのユーザーの発想次第で誰もが広く使えるツールになっているのだ。
こういった事例を見ていると、改めて何かしらのハンディを持った人に向けて作ったものは、その延長線上でいろいろな人の不便や弱点をカバーする可能性があるとわかる。
ダイバーシティという言葉が出始めの頃によく聞かれたのは、ハンディがある人にとって暮らしやすい社会を作ることは、すべての人が暮らしやすい社会につながるという言葉だった。
確かに、足腰の障がいがある人が歩きやすい道路は、高齢者や子ども、妊婦にとっても歩きやすい道路だ。また、視覚や聴覚の障がいを持つ人が見聞きしやすい情報は、誰にとっても見やすい情報といえる。
実際、この記事で取り上げた事例を見ていると、何かしらの不便を解消するグッズは、それ以外のさまざまな人の不便も助け、広く世のためになると分かる。
ハンディがある人にとって暮らしやすい社会を作ることは、すべての人が暮らしやすい社会につながる――。こういった言葉は、どうしても“きれいごと”として受け取ってしまうが、この記事で挙げた製品を見ると、その考えは確かに間違っていないと実感する。