介護問題は、はじめの一歩でつまずきがち。駆け込み寺も必要
こうした悩みは、親の介護に直面した現役世代に共通のものだ。実際の手続きに時間を取られるというよりは、いかに動くべきかを調べ、どこに問い合わせればいいのかを調べ……と、下準備や方針決めの段階で行き詰まって立ち往生してしまうのである。人に迷惑をかけないように自分でできるところまでやってみる。あれやこれや手を尽くしてから、ようやく誰かに助けを求める…。責任感があるだけに、安直に誰かを頼らない。ようやく、いざ支援を求めようにも、今度はどこの誰にコンタクトすべきかが分からない……こうした社員は多い、と長野氏は話す。
有給休暇や介護休暇の範囲で対応できているうちはまだしも、介護休業の取得を検討する段階ともなれば、親の要介護状態や認知症状はかなり進んでいることが多い。この期に及んで、老親のそばに居ながら自身で調べてコンタクトして折衝して、おまけに介助までして…ということになると、社員が限界になってしまう。
「老親問題は誰の身にも起こることですから、仕事同様に早期に備えておくことはもちろんですが、それに加えて、老後のあらゆる問題について気軽に相談できる専門の窓口を会社が用意してあげるのもアリではないかと、ここ数年ずっと考えていたのです」(長野氏)
老親問題については早期の備えが大切で、加えて、いざという時の駆け込み寺も必要なのだ。
根強く残る、親の介護を人に任せることへの罪悪感
介護休業制度については、一般に三つの問題点が指摘されている。
(2)介護保険制度との矛盾(「家族介護はせずプロに任せる」というのが介護保険の基本コンセプト)
(3)要介護2以上でないと取得できない
エイブリックでも、当初は人事部門がいくら「介護休業の取得に躊躇(ちゅうちょ)はいらない」と伝えても、現場の管理職が周囲の社員のことをおもんぱかって難色を示すケースがあったが、今は解消されているという。
長野氏が今危惧しているのは、「親の介護は自分がしなければならない」という責任感や義務感を持っている社員が本当に多いという点だという。さらに、「自分の親の世話に関する発言をするとき、社員がとても申し訳なさそうにやってくるのがやるせないのです。『大変申し訳ありませんが、親の通院に付き添うために休みます。ご迷惑をおかけしてすみません』と深々と頭を下げてくる。出産・育児の関係で休むときとは、表情が大きく違うんですよね」(長野氏)