対話再開の機会が失われたことは
習近平政権の大きな誤算

 筆者が「習近平総書記にとって誤算」と述べたのは、「気球」問題によって、2月5日から6日に予定されていたアメリカのブリンケン国務長官の訪中が中止となったことだ。

 ブリンケン国務長官は、北京で中国の秦剛外相と会談するだけでなく、習近平総書記とも面会する方向で調整を進め、アメリカ政府も「気球進入」の公表を、訪中の中止を決めるギリギリまで控えていたが、中国側からすればアメリカとの対話再開の機会が失われる形になってしまった。

 トランプ前政権時代から貿易摩擦や台湾問題を巡り冷え込んできた米中関係だが、中国にとってアメリカとの関係改善は不可欠だ。

 習近平総書記からすれば、台湾問題こそ、中国国内で求心力を保つため強気の姿勢を見せ続ける必要があり、妥協の余地はないが、技術開発や経済面では、今なお最大の貿易相手国であるアメリカとうまくやっていきたいというのが本音だ。

 アメリカは、2022年11月、連邦通信委員会が中国の華為技術(ファーウェイ)やZTEなどが製造する新たな通信機器の販売や輸入を全面禁止にしたが、半導体の対中輸出規制強化などと併せ、この状態が長期化すれば、中国の経済再建は立ち行かなくなる。

 アメリカの民主党関係者は筆者の問いにこう語る。

「中国は、今年1月初めまで駐米大使だった秦剛氏を外相に起用しました。彼は離任に際し、ツイッターに『友好的なアメリカ国民に感銘を受けた』と投稿しています。アメリカをよく知る人物です。中国が秦剛氏を新たな外相に据えたということは、まさに対米重視の表れです。そんな中での『気球』問題は中国にとって痛いでしょうね」

 アメリカでは、2022年11月の中間選挙で、連邦議会下院の過半数を対中強硬派が多い共和党が奪った。今後は、トランプ前大統領ばりに「アメリカファースト」の名の下、「中国をたたけ!」との声が高まる可能性もある。

 それだけに、「気球」問題で、アメリカとの対話の機会が失われたことは、習近平総書記にとって、大きな誤算であったというほかない。