デザインドリブンのイノベーションに「デザインを理解する力」は必要か

イタリア・ミラノ発の「意味のイノベーション」には、事実に対する多様な解釈が欠かせない。その基盤となるのが「デザインディスコース」である。ロベルト・ベルガンティ教授の主張を支えるこのプロセスは、多様な立場の人々が集まり意見を交わし合うミラノデザインの生態系と重なる点が多く、ミラノという都市の特殊性ゆえに成立するアプローチだと見る向きもある。今回は、デザインディスコースがどの地域でも成立する前提を検証することで、どのような集まり方をすればより有効なステップとなるのか、そのヒントにつなげる。

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デザインディスコースが有効な都市のサイズとは

「デザインディスコースはミラノとその周辺で有効な特殊なものだ。それ以外の地域で成立するのは難しい」。往々にして、そう思っている人がいます。しかし、連載3回目に書いたように、どのような地域でも成立が可能です。日本も例外ではなく、さらにリモートワークの普及はその可能性を広げるはずです。

 しかし、なぜ特殊な土壌がミラノにあると思われやすいのでしょうか。ミラノで生まれたプロダクトデザインが高評価を受けてきた伝統とデザインディスコースの成立を同一視するからでしょうか。今回はその背景を考えてみたいと思います。  

 大都市ではなく中規模、およそ人口100万人程度の都市の方が、デザインディスコースが求める異なった分野の人と偶然に出会いやすい。そして、人口約130万人のミラノはこのサイズに入ります。しかし、100万人程度の都市など世界に数多くあります。それに大規模な都市であっても、それぞれ地区に分かれているのが一般的です。従って、人口や面積という指標をもってデザインディスコースの可否を語るのは乱暴かもしれません。

デザインドリブンのイノベーションに「デザインを理解する力」は必要か(C)Ken Anzai