「タイパ主義」では語れない若者文化
調査で分かった「三つのトレンド」
「背徳友情」
夜に高カロリーなパフェやアイスクリームを食べるなど、ダイエットや食事管理の観点では“悪”とされている行動を、若者はあえて友人と共にすることがある。原田氏はこの現象を「背徳友情」と呼んでいる。
「背徳感を共有することで友情が深まるのは、(不良の)高校生がたばこを吸うのに近い感覚かもしれません」と原田氏。法律や校則を破ることなく、スイーツを食べるだけで「ちょっと悪いことをしている感じ」を味わえるのが背徳友情の醍醐味である。
22年以降、東京・池袋の「夜パフェと夜カフェ専門店 てんてん」をはじめ、「月曜からアイス」(香川県高松市)、「&ice」(大阪府寝屋川市)など、このニーズを捉えた「夜スイーツ専門店」が全国各地に誕生している。
「呼び出しおしゃれ」
若い女性の間では今、至近距離で会った人しか気付けない、細部にこだわったファッションが流行している。
伸ばした爪の裏側に施したネイルアート「裏ネイル」、歯に装着する金属やクリスタル製の装飾品「ティースジュエリー」、瞳の形をおしゃれに見せる「ハート形カラーコンタクト」などがその代表例だ。
友人をわざわざ呼び出さないと披露できないことから、原田氏は「呼び出しおしゃれ」と呼んでいる。
「自粛ムードが明けた今でも、出かけることを面倒に感じる若者は多いです。その中で友人とわざわざ会うことは、お互いの仲の良さの確認や、周囲への仲良しアピールにつながります。
細部までこだわったおしゃれをすると、友達と会うきっかけや話のネタを作れるため、これまで飾らなかった部分まで飾りたいというニーズが生まれたようです」
「お酒(しゃ)れブランド」
これまで紹介してきた二つのキーワードは、「新型コロナによって薄れた友人関係を築き直すための『守りの消費』の一環だといえます」と原田氏は語る。
その消費行動とは相反するようだが、原田氏は「コロナ禍の落ち着きとともに、若者の『周りの人と差別化したい』というニーズも復活しつつあります。これによって、他とは違うとがったアイテムを求める『攻めの消費』も始まりました」と分析する。
「攻めの消費」の一例として原田氏が挙げたのは、「お酒をモチーフにした服」だ。お酒とお洒落をかけて、原田氏は「お酒(しゃ)れブランド」と命名した。
例えば、22年2月に立ち上げられた「ホロヨイ」というアパレルブランドでは、胸に「カルーア」「ニホンシュ」「ホロヨイ」といった言葉をプリントしたTシャツを販売している。
イラストレーターの師岡とおるさんが立ち上げた、お酒にまつわるグッズのブランド「NONBEE!(ノンべー)」でも、そのブランド名や「LET’S DRINK!」といったメッセージを胸元に印字したアパレルを展開している。「呑」「酔」などと書かれたキャップも販売中である。
若者がこれらを身に着けて街や学校を歩けば、自身が周囲とは違って“酒飲み”であることをそれとなくアピールできるというわけだ。
「『若者の酒離れ』が進んだからこそ、こうしたブランドの需要が出てきたといえます。みんながお酒を飲むわけじゃない現代では、こういうシャツを着ていると、『自分は飲みキャラだ』という差別化や自己ブランディングに役立ち、周りからお酒好きだと思ってもらえます。(大学などでは)お酒が飲める人がスクールカーストの上位にいる傾向は今も残っているようですし。
また、今は新型コロナの感染を気にしてお酒を控えている人もおり、飲み会に気軽に誘いづらくなりました。このような状況下で『酒好き』だと直接的にアピールすると、周りから引かれてしまう懸念があります。そこで、お洒にまつわるアパレルを着て、さりげなく『酒好き』をアピールすると、同じような人に気付いてもらえる効果も期待できます。
誰もがお酒を飲むのが当たり前だった30年前に、このようなアパレルがあっても売れなかったでしょう。着ていると周囲に『どうした、お前』と突っ込まれていたかもしれませんね(笑)」
「若者はタイパ主義」と断じることは
果たして適切なのか
これら三つのキーワードからも、Z世代は必ずしも「タイパ主義」ではないことがうかがえる。
何事も「時短」で効率良く済ませたいのであれば、わざわざ友人を夜に誘い出し、健康に良いとはいえないスイーツを食べに行くことはないだろう。
相手に気付いてもらえるかも分からない中、時間をかけて爪の裏にまでネイルアートを施すのは非効率だ。
飲み会を開きたいのであれば、洋服を通じて遠回しにアピールするのではなく、仲間に直接声を掛けた方が「タイパが良い」はずである。
若者文化を本当の意味で理解するには、「若者はタイパ主義」だとひとくくりに論じるのではなく、若者のコミュニケーションやファッションの細かな変化と、その裏側にある理由にも目を向けるべきではないだろうか。
>>本記事の前編『「若者がタイパ主義とは思えない」Z世代研究の第一人者・原田曜平氏が断言の訳』を読む