日本人は和を重んじる民族で、協調性が高い――。そんな定説を覆す「不都合な研究結果」をまとめた論文が、2000年代前半に世に出ていたことをご存じだろうか。「ゲーム理論」を応用した同研究では、日本人は米国人よりも、相手を出し抜く利己的な振る舞いを好む結果が出たという。米国でのビジネス経験が長い筆者の目には、確かに日本企業の社内では、社員同士で「なぜアイツがプロジェクトに選ばれるんだ」といった嫉妬や怨恨が起きやすい印象だ。そうした風土を変えるには、どんな手だてが必要なのか。(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー 工藤卓哉)
他人の足を引っ張りたがる
日本人のあしき習性
「日本人は人の足を引っ張るのが好き」などと言うと、各方面からお叱りを受けそうだが、それを示唆する研究が存在する。いわゆる「ゲーム理論」の「囚人のジレンマ」を応用した研究だ。論文が公刊されたのは2002年(日米の実験結果の比較)と04年(国内の実験結果のまとめ)である。
当時、大阪大学社会経済研究所に所属していた西條辰義氏(現・高知工科大学フューチャー・デザイン研究所長/経済・マネジメント学群特任教授)らが行った下記の実験によると、日本人被験者は米国人被験者よりも「自らの利益を減らしてでも、相手に利益を与えまい」と振る舞う懲罰的な行動(スパイト行動)を選ぶ割合が高かったのだ。
実験は2人1組(それぞれ10ドルを保有)で行われる。互いに0ドルから10ドルまでの任意の金額を出し合い、「拠出された金額の合計×1.5」に相当する金額を等しく得られる。投資への参加、不参加、投資額については、いずれも被験者の判断に委ねられている。
たとえば、AとBがそれぞれ10ドルずつ投資すれば、拠出された合計金額(20ドル)の1.5に倍に当たる30ドルがAとBの双方に支払われる。
仮に、Aが10ドル投じ、Bが投資に参加しなければ、拠出された金額(10ドル)に対して15ドルが双方に支払われる。その結果、Aの手元には15ドル、Bの手元には25ドル(うち10ドルは当初からのもの)が残る。
仮にAもBも投資に参加しなければ、お互いの手元には10ドルずつ残る計算だ。
※編集部注:本稿のために内容を簡略化したため実際の実験内容とは異なる。
※参考:西條辰義「日本人は『いじわる』がお好き?!」/公共財供給の新たなモデル構築をめざして : 理論と実験
経済合理性からいえば、相手がいくら出そうが常に10ドル投資すべきなのだが、実際に実験に参加した被験者の中には、0~9ドルまでを選ぶ者が一定数いたという。相手がリスクを負わず利益を上げることを見過ごせず、自分の取り分が減るのもいとわず、相手を打ち負かしてやろうというスパイト行動に走ったからだ。
繰り返しになるが、西條氏らが日米の大学でこの実験を行い、結果を比較したところ、その数は米国人被験者より日本人被験者の方が多かった(20人の被験者から10組のペアを作り、同じ実験を15回実施した結果)。
後に中国や韓国などでも同様の実験を行ったが、どの実験においてもスパイト行動を取る被験者の数は日本人に顕著だったという結果が出ている。
そして実は、この実験結果にはまだ先がある。