加速する自動車の電動化
全産業でLCAの重要性が認識されるなか、特に自動車においては、電動化の加速がLCAの重要性を高めている。
電気自動車(Battery Electric Vehicle:BEV)は、走行中はCO2を排出しないため、内燃機関車(Internal Combustion Engine Vehicle:ICEV)よりもはるかに環境によいと考えられることもあるかもしれないが、LCAで見るとつくり方や使われ方によってはBEVが必ずしも圧倒的に環境にいいとは言いきれない面もある。
「Life Cycle Assessment in the automotive sector : a comparative case study of Internal Combustion Engine(ICE)and electric car」(2018, Francesco Del Pero, Massimo Delogu, Marco Pierini)の試算によると、BEV車両製造時のCO2排出量は、ICEVの約1.8倍(その多くは車載用電池製造時CO2排出量)となっており、また、走行用の燃料(BEVの場合は電気)製造に関しては、欧州ベースの発電構成・燃料構成で15万km走行を前提とする場合、BEVはICEVの約2.5倍となり、車両製造と燃料製造を合わせると約2倍のCO2排出量となる。
これに走行時のTank to Wheel(自動車の燃料タンクから実際にタイヤを駆動させるまで)のCO2排出量を加えると、Tank to WheelのCO2排出量がゼロのBEVに対して、平均的な燃費を前提とするICEVは、合計で約1.5倍のCO2排出量となる。走行段階のTank to Wheelでの差21,400kgCO2eq.が、燃料製造まで含むWell to Wheel(石油の採掘からタイヤを駆動するまで)では約15,400kgCO2eq.の差に縮まり、さらに製造と廃棄までを含む狭義のLCAで見ると、差は約10,000kgCO2eq.にまで縮まるという試算になる。
燃費のきわめてすぐれたハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、非化石燃料を用いたICEVとの比較や、電気製造時のCO2排出量が大きい電源構成の地域においては、ICEVとBEVのCO2排出量の差がさらに小さくなり、場合によっては逆転することも考えられる。したがって、本来の意味での環境対策を推進するならば、資源採取から廃棄に至るまで、すべてのプロセスで負荷を抑える努力と合わせて電動化を推進することが必要となる。