ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment、以下LCA)とは、製品やサービスのライフサイクル全体(「ゆりかごから墓場まで」)における、投入資源、環境負荷およびそれらによる地球や生態系への環境影響を定量的に評価する方法で、その評価結果に基づき、製品設計や原材料の選択、製造工程、輸送手段や利用方法などを変革し、ライフサイクル全体で環境負荷を低減させることを目的としている。その意味で、あらゆる産業、あらゆる製品・サービスが関わり、国の政策にも多方面で関係してくる。書籍『LCAが変える産業の未来』では、なぜ今、LCAへの注目が高まっているのか、現在、LCAに関してどのような動きがあるのか、そしてそれをどのように企業活動・企業経営に組み込み、活かしていくかを解説している。
国家安全保障と密接に関わるLCA
昨今の地政学リスクの高まりのなかでもLCAの重要性は増している。それは、LCAが、「環境政策」にとどまらず、「資源政策」「産業政策」といった国家安全保障と密接に関わっているからである。
まず、LCAは環境政策からスタートした。たとえば、自動車産業における環境政策はこれまで燃費規制(EUのCO2排出規則では、新車乗用車の企業別平均CO2排出量を2021年までに95g/km以下にしなければならない)や排ガス規制(2025年には「ユーロ7」が施行予定)およびELV(End of Life Vehicle:使用済み自動車)指令などがメインであったが、電気自動車(Battery Electric Vehicle:BEV)の時代になると燃費規制や排ガス規制といった従来の環境規制は意味がなくなり、別の環境負荷軽減規制が必要となる。その中心となるのがLCAで、ライフサイクルの上流から下流(使用段階やリサイクルを含む)までを通じて、温室効果ガス排出などの環境負荷の軽減が求められてくることになる。
資源政策がこの環境政策とカップリングされる。資源には、現代の3大経営資源ともいわれる「エネルギー」「マテリアル」「データ」がある。まず、エネルギー政策面では、化石燃料の使用量、CO2の排出量を減らしLCAをよくすることが、環境によいだけでなく、エネルギー資源の域外依存を減らし、国家としてのエネルギー安全保障につながる。
EU統計によると、2019年時点での総エネルギー消費に占める化石燃料(石炭、天然ガス、石油)の比率は依然70%弱を占めている(世界全体では2018年85%、日本も2020年85%で輸入依存度は90%前後)。再生可能エネルギー(再エネ)比率は16~17%程度にとどまっており、化石燃料の使用の多い電力と運輸での削減が域外依存からの脱却にとって重要視され、電力セクターにおいては再エネ導入、運輸セクターにおいては燃費規制がその推進力となってきた。その結果、電力においてはEUでは再エネ導入が進み、2020年には、総発電量に占める風力や太陽光など再エネ電力の比率は38%まで上昇し(日本は2019年度で18%)、化石燃料による発電量の比率37%と同等の水準にまで上昇している(※)。
このように、電力の再エネ比率が上昇してきた段階においては、運輸セクターのCO2規制を究極まで進めたゼロカーボン化、つまりBEV化が、LCAの観点から有利になるため、LCAはエネルギー資源政策とリンクする。
※ドイツのアゴラ・エナギーヴェンデと英国エンバーによる共同発表:EU Power Sector in 2020